君の光、僕の中の光

 溜まりに溜まっていた補習授業をスザクが一気にこなし終わった時、日はとうに暮れ外はすっかり暗闇に沈んでいた。校門までの長い道程を等間隔に並ぶ小さな外灯だけが頼り無げに照らしている。
 「すっかり遅くなっちゃったな」
 スザクだけではなく、授業をしていた教師も帰り道を急いでいるだろう。自分一人の為に申し訳ないことをしてしまった・・・そう思っても、これからも何度も補習授業やレポート課題を出して貰う事になるだろう。
 「なるべく迷惑は掛けたくないんだけどなあ」
 軍人でありながら、学園に通うということにそもそも無理があるのだ。スザクの思いとは裏腹に、こればかりはどうしようもなかった。
 「スザク!」
 「ルルーシュ!?え、どうしてここに?」
 一人歩いていた所に、よく知った声に呼ばれてスザクは驚いた。声が聞こえた方向に顔を向ければ私服姿のルルーシュが立っている。
 「補習が終わるのを待ってたんだ。教室の電気が消えたから、クラブハウスから出てきたんだ。行き違いにならなくて良かったよ」
 「まさかずっと見てたの?」
 「まさか。だいたい計算してそろそろかなって時だけだよ。・・・なあ今からクラブハウスにこないか?」
 「え?」
 今から?とスザクが驚いた声を上げた。人の家を訪ねるには既に非常識な時間だ。最もこの場合は家主から誘われているのだから、気にする必要はないだろうが・・・。
 「今から帰るのは危ないだろ?」
 「女の子じゃないんだし、大丈夫だよ」
 ルルーシュの言葉にスザクが苦笑した。自分は十七歳男子でしかも訓練を積んだ軍人だ。けれど、スザクの返答にルルーシュは首を振った。
 「忘れてはいないだろうけど、おまえは有名人なんだよ。いつどこで誰が狙ってくるとも限らないだろう?こんな時間に一人で出歩かない方がいい」
 「う〜ん・・・」
 不本意ながら、スザクはルルーシュが言う通り有名人だ。いまやエリア11においてスザクの名前を知らない人間は殆どいないだろう。
 「理屈を並べたけど・・・本当はナナリーが楽しみにしてるんだよ」
 「え?」
 「真っ暗になってから帰るなんて危ないから、クラブハウスに泊まればいいのにって言ったら、凄く喜んでさ」
 「・・・・・・でも・・・」
 ナナリーの名前を出されるとスザクも弱い。けれどスザクは、どうしても自分が彼らにあまり深く関わるのは今でも気が引けた。
 「何か呼び出しがある可能性があるから・・・基本的に自宅に待機していないといけないんだよ」
 あまり関わらない方が、と言えばルルーシュが怒り出すのは分かっていたのでスザクは別の理由を言ったが、スザクが言わなかったもう一つの理由もルルーシュは気付いたのだろう。微かに不機嫌そうに眉を顰めた。
 「どうしても駄目なのか?連絡しても──許可は出ないのか?夕飯も用意してあるんだけどな・・・」
 「夕飯って・・・まさか僕の分?」
 「他に誰の分があるって言うんだ」
 「う〜ん・・・・・・。それじゃあ一応聞くだけ聞いてみるよ。ちょっと待ってて」
 スザクの直接の上司となるとロイドだが──どう考えてもこういうことを聞くには向いていない。スザクは迷うことなくロイドの副官であるセシルに電話を掛けた。


 ルルーシュから少し離れて電話を掛け始めたスザクは、一生懸命説明しているようだった。一応軍関係者に掛けている電話だということを考慮しているのか、ルルーシュにスザクの声は聞こえない。
 スザクが自分達と深く関わることを未だに遠慮していることをルルーシュは知っている。けれどそんな理由で断ることなどルルーシュは認めるつもりはなかった。けれどだからと言って軍を理由に断られるのも我慢ならない。
 (我ながら、強欲なことだ・・・)
 暫くして「はい、・・・ありがとうございます」と少し大きな声で答えるスザクの声がルルーシュの耳に届いた。許可が出たのだろう。嬉しさにルルーシュの頬が緩んだ。
 「ルルーシュ、許可が出たよ。明日は仕事もないし、携帯電話さえ通じる状態なら構わないって」
 「そうか、良かったよ。ナナリーも喜ぶ」
 ルルーシュはスザクに笑顔を向けて、二人連れ立ってクラブハウスへと向かった。


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