小さな生命に祝福を

 カレンやルルーシュの心配とは裏腹に、スザクは生まれてくる子の父親を四時間程で見つけていた。名前しか分からない状態では上出来だろう。
 身に纏った制服は敬遠されたし、何より枢木スザクの顔も名前もよく知られてしまっており、名誉ブリタニア人であるスザクが声を掛けようとすると怯えて遠ざかる人や罵る人が殆どだった。けれど、スザクが必死に事情を説明し頭を下げ続けるうちに、遠慮がちにではあったけれど何人かが協力してくれたのだ。頭を下げる人間に罵声を浴びせ続けることは難しい。そして何より、こんな時代だからこそ、生まれてくるたった一つの生命の為に走る少年を人々は放っておけなかった。
 けれど、スザクがやっと見つけた青年は、自分の子が生まれそうだと聞いても堅い声で断った。
 「俺は行かない」
 一言だけ返してスザクに背を向ける青年をスザクは慌てて引き止めた。
 「どうしてですか!?貴方のお子さんが生まれるんですよ!?」
 「・・・・・・でも、彼女はブリタニア人だ」
 「それが何だって言うんですか!?彼女がブリタニア人だから、捨てるんですか!?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 無言で腕を掴むスザクの手を振り払い、立ち去ろうとした青年の腕をスザクは放さなかった。どれだけ青年が手を振り払っても決してスザクは手を離そうとはしなかった。
 「君には関係ないだろうっ」
 「確かに・・・僕には関係ありません。でも・・・・・・」
 苦しい呼吸の下で重いお腹を両腕で庇って、必死に激痛に耐える姿を、頬を伝った涙を見ている。「必ず連れて来る」と言った自分を必死の眼差しで見返した彼女の瞳を覚えている。
 「彼女は貴方を待っているんです」
 スザクの言葉に青年がはっと瞳を見開いた。スザクの顔を見て、それから表情を歪めて顔を逸らした。
 「・・・っそんな筈、ない」
 「いいえっ。彼女は貴方を待っています。だから・・・僕に貴方の名前を教えてくれたんです。貴方を待っているから」
 「・・・・・・どうして・・・・・・」
 呆然と青年は呟いた。苦しげに歪む青年の顔を見ながら、スザクは静かに口を開いた。
 「それは、貴方が一番良く分かっている筈です」
 「・・・・・・・・・っ」
 愛する女性の名前を何度も呟きながら涙を流す青年を、スザクは黙って見守った。


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