「スザク君、もう見つけたかしら」
「さあ・・・そんなに直ぐには見つからないと思うけど」
「ルルーシュ君、どこに行くの?」
分娩室の前のベンチから立ち上がったルルーシュに驚いたカレンが声を掛けた。
「外か携帯を使ってもいい場所を探すよ。病院の中で携帯の電源を入れたままって訳にいかないだろ?」
「あ・・・そうね」
自分の携帯電話を取り出して、カレンは急いで電源を切った。
「・・・彼女、大丈夫かしら」
不安気にカレンが分娩室を振り返った。病院に着いて直ぐに彼女は分娩室に運びこまれ、慌しく医師や看護師が出入りした後は何の変化もない。ルルーシュとカレンはその嵐に巻き込まれるまま、気付いたらこのベンチに居たのだった。
「大丈夫だろ。医師や看護師が付いてるんだし」
「そんな言い方って」
「・・・・・・俺達に出来ることなんて何もない」
ふと、ルルーシュの握りこんだ右手が震えていることにカレンは気付いた。澄ました顔を見せていても、ルルーシュも不安なのだ。──カレンと同じように。
「そうね・・・せめて無事に生まれてくるように祈ること位しか出来ないわね」
「・・・・・・」
「早く、父親が来てくれればいいのに」
「・・・・・・難しいかもしれないな」
「え?──どうして?そんな・・・・・・」
「彼女の名前、聞いただろ?」
「名前?え、ええ・・・聞こえたけど・・・」
ルルーシュは一度振り返って分娩室の扉を見つめた。カレンには、その横顔からルルーシュが考えていることを読み取ることはできない。ただ、怒りか悲しみか諦念か──複雑な感情が幾つも混ざっていること位しか分からない。
「彼女の苗字・・・・・・あれはブリタニアの貴族だよ」
「貴族って・・・・・・それじゃ」
ブリタニアの貴族令嬢とイレヴンの青年。征服者と被征服者。貴族と平民。現在のこの国においては、二重三重の禁忌、だ。そして──
(あたし、と、同じ、だ)
ブリタニア貴族の父親と日本人の母親。カレン自身もハーフだ。まだ、この国が日本だった頃に自分は生まれたけれど。
カレンは震え始めた自分の身体に両腕を回した。しっかりと抑えておかないと、何を言い出すか分からなかった。
「せめて逆なら、まだややこしくなかったけど──・・・・・・ごめん」
涙で滲んだ鋭い視線で睨みつけられて、ルルーシュは咄嗟に謝った。カレンの立場を考えれば言って良い言葉ではなかった。けれどそれを口に出すわけにはいかないから、ただ謝罪の言葉だけを伝えて、それ以上言おうとした言葉をルルーシュは飲み込んだ。
(彼女がイレヴンで男がブリタニア人なら、最悪愛人でも何でも、どうにでも出来た。でも──)
現実は、これから一つの生命を生む彼女がブリタニア人でしかも貴族。そして男がイレブンだった。
(彼女の親は、ブリタニア貴族は、自分の娘がイレヴンの子を生むことを決して許さないだろう。娘が傷物にされたとしか思わないだろう)
最悪の場合、相手の男は殺される。そして彼女の子も。よくて、どこかの施設に預けられることになるだろう。何れにしても、彼女は自分の子と直ぐに引き離され、二度と会うことは叶わないだろう。
(彼女も相手のイレヴンの男もそれを分かっている)
彼女は、一度も家族に連絡して欲しいとは言わなかった。
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