小さな生命に祝福を

 アッシュフォード学園の生徒会副会長であるルルーシュ、更にメンバーのスザク、カレンの三人がそれぞれに買い物袋を抱えて学園近くを歩いていた。ミレイ会長から急に出された指令によりお菓子やジュースを買い込んだ帰りである。
 「買い物、思ったより時間がかかっちゃったね」
 「こんなに買えば時間もかかるさ」
 スザクもルルーシュも両手に買い物袋を提げて歩いている。対してカレンは小さな紙袋一つだけを抱えている。カレン自身は自分ももっと持つと言ったのだが、スザクに断られたのだ。二人に悪いと思いながらも病弱設定のカレンは、「そう・・・何だか悪いわ」と言いつつそれ以上持とうとはしなかった。
 カレンの健康優良児ぶり(何しろナイトメアフレームを操縦する程だ!)を知るルルーシュとしては腹立たしい限りだが、まさかカレンに半分持てなどと言う訳にはいかない。(それに男子の自分が女子のカレンに半分頼むというのは情けない。たぶん実際の腕力では負けるとしても。・・・それも情けない。)
 そういう訳で三人は学校への道を少し急ぎ足で歩いていた。
 「あっ」
 「スザク?」
 「あそこ、人が倒れてる」
 叫ぶなり、スザクは駆け出した。ルルーシュやカレンがどこに?と聞く暇もない。仕方なく荷物を抱えたままスザクの後を追うと、二十そこそこの女性が道端に蹲っていた。
 「あの・・・だいじょ──」
 「カレンさん、救急車を呼んでっ」
 カレンの言葉を遮って、女性を支えたままのスザクが叫んだ。え?と思ったのは一瞬でカレンも女性の状態に気付いた。お腹が・・・大きい。カレンは緊張で震える手で携帯電話を取り出し、急いで救急車を呼んだ。
 「父親にも連絡した方がいいんじゃないのか」
 「あ、そうだ。連絡先を教えて頂けますか」
 ごく普通のスザクの言葉に、だが女性はその肩を大きく震わせた。
 「あ・・・父、親は──・・・彼は・・・」
 それ以上言葉が続かない。何か事情があるのだろうか。これ以上聞くべきか迷って、三人は顔を見合わせた。
 「彼は・・・イレヴンなの。──きっと、来て、くれ、な、いわ」
 苦しい呼吸の下で呟かれた言葉に、スザクとカレンが目を瞠った。
 「そんなことっ──この子の父親、なんでしょう?」
 「も・・・会わな・・・方が、良い、て・・・」
 堪えきれなくなった涙が頬を伝った。
 「救急車、そろそろ来るわよっ」
 「──貴方の名前と、この子の父親の名前を教えてください。僕が、その人を連れてきます」
 「無、理よ・・・うっぐっ・・・彼っ新宿・・・ットー、居るっ・・・危なっ・・・いっ」
 スザクはしっかりと手を握って、微笑を浮かべた。
 「大丈夫です。僕は──元々イレヴンなんです。必ず見つけて連れて来ます。だからそれまで、頑張ってください」
 大きく目を瞠って自分を支える少年を見つめた後、切れ切れの声で彼女は自分の名と、もう一つの名を呟いた。
 もう一度笑顔を見せると、スザクはルルーシュに彼女を預けて立ち上がった。
 「二人はこの人に着いててあげて。見つけたら直ぐに連絡するねっ」
 最後は叫びように言って、スザクは新宿ゲットーに向かって走り去った。
 カレンは複雑な思いを隠せないまま、目の前で苦痛に喘ぐ女性の姿を見つめていた。


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