いつだって不穏な気配は傍にあるのに
目の前に突きつけられるまで、気付かないんだ──


池に浮かぶ月に手を伸ばして

 「ルルっ、どこ行ってたのよ」
 ルルーシュを詰るシャーリーの声は、今にも泣き出しそうな悲痛な色を帯びていた。いつも明るい彼女が眉を寄せ、目の端を紅くしてルルーシュを睨むように見つめていた。
 「ど・・・うしたんだ?シャーリー・・・」
 俯いたシャーリーがルルーシュの服を両手で掴んだ。その手も肩も小刻みに震えている。
 「黙っていたんじゃ分からないだろう?何かあったのか?」
 冷静に聞こうとしても、これまでに見たことの無い様子に、ルルーシュの胸の内にも言い知れない不安が過ぎった。そして、その不安は次のシャーリーの言葉で現実となった。
 「スザク君が──・・・スザク、君、が・・・・・・」
 途切れがちなシャーリーの言葉が告げた内容は、今のルルーシにとって最悪の出来事の一つだった。
 シャーリーの言葉を聞くなり、ルルーシュは一目散に駆け出した。縋るように自分の服を掴んでいたシャーリーの手を気遣う余裕もなかった。教えられた病院までの道程が只管に遠く、シャーリーの嗚咽交じりの言葉が、何度も脳裏に蘇る。

 ──スザク君、下敷きになって・・・血も一杯出て・・・名前、何度も呼んだのに・・・全然返事をしないの・・・

 スザク、スザク、スザク。嫌な想像が次々に浮かんで、ルルーシュの心は竦み上がる。
 (そんなことがあって堪るか)
 けれど、走り続けるルルーシュの耳朶に届く風音からは、不穏な響きしか聞こえなかった。


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