欲しいものは全力で奪い取れ 3

 枢木スザクの足は速い。
 「あっスザクっ」
 慌てて呼びかけたルルーシュの声も、既に全く届かない。
 「まあ、いい。スザクが知っている場所など限られ──」
 「そ・お・は、いかないなぁ〜ルルーシュっ」
 がしっとリヴァルが横から肩を組んでくるのを、ルルーシュが不快気に見やった。
 「何だ、リヴァル?俺の一日服従の権利とやらが欲しいのか?」
 「ま、ね。色々使えそうだからなぁ」
 ≪ルルーシュ出発まであと4分≫
 「ほお?何に使うっていうんだ?」
 「そりゃあもう、い・ろ・い・ろ・と。まずは宿題を全部やって貰うかな。それも古代史のレポートv」
 眠りを誘う授業No.1でありながら、出されるレポートの量は半端ではなく、これまで数多くの生徒を涙の海に 沈めてきた授業である。
 「古代史とは・・・そんなことを言うなら、もう二度と手伝わないぞ」
 「手伝わないぞって、ルルーシュが手伝ってくれたことなんて殆どないじゃん」
 「それなら前に数学の山を当てたのはどうなんだ?」
 「山って言ったって、一つだけだろ。他の山は教えてくれなかったからさ」
 「ふっ・・・試験は日頃の勉学の成果を計るものだ。山を頼りにしてはいけないな」
 「うわっ、山当て撒くって点を稼ぐルルーシュには言われたくないね」
 ふふ、と怪しく二人が笑う。次の手を考える間が暫し空く。
 ≪さあっ残りは一分三十秒≫
 二人の攻防を尻目に、カウントダウンは徐々に減っていく。
 「時にリヴァル・カルデモンド。こんな噂を聞いたんだが──」
 「な・・・なんだよ」
 不意に耳元で囁き声で話しかけられ、リヴァルはぎくりとする。
 「先日バイト先のバーにて、随分素敵な御仁に気に入られたらしいな」
 「なっ・・・・・・・なん、のことだか」
 「胸板は大胸筋ではち切れんばかり、シャツから覗く縮れた胸毛もセクシーなダイナマイト・バディの 持ち主だったそうじゃないか」
 「な、・・・何でそれをっ」
 「熱い求愛だったそうじゃないか。何でお受けしなかったんだ?さぞやおぞまし・・・じゃない、 魅惑の未知の体験が出来ただろうに」
 「やめろー、言うなぁぁ!俺のトラウマをぉぉぉ」
 リヴァルは、うわぁぁぁと叫びながら耳を塞ぎ、蹲ってしまった。
 「これ、生徒会長に話したら楽しいことになるだろうなぁ、リヴァル・カルデモンドの危ない夜」
 そこへ自分も膝を着いて、追い討ちを掛けるようにそっと囁く。リヴァルにとって、ルルーシュは もはや悪魔の化身、いや悪魔そのものだった。
 「ま、そういうことだから、邪魔はするなよ?」
 ルルーシュは悠然と立ち上がり、怯えた表情のクラスメイトを見渡す。
 ≪さあ、いよいよ残り20秒!19、18、17・・・≫
 「で、他に俺を引きとめようという輩はいるか?」
 ぶんぶんと一斉に皆、首を振る。
 「ふ、賢明だな」
 その様子を確認し、満足気に微笑を浮かべるとルルーシュは悠然と踵を返した。
 「さあ、スザクを見つけるか」
 ≪・・・3、2、1、スタート!≫
 いよいよかくれんぼは開始された。
 リヴァル・カルデモンドという尊い犠牲を残して。

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