枢木スザクの足は速い。
「あっスザクっ」
慌てて呼びかけたルルーシュの声も、既に全く届かない。
「まあ、いい。スザクが知っている場所など限られ──」
「そ・お・は、いかないなぁ〜ルルーシュっ」
がしっとリヴァルが横から肩を組んでくるのを、ルルーシュが不快気に見やった。
「何だ、リヴァル?俺の一日服従の権利とやらが欲しいのか?」
「ま、ね。色々使えそうだからなぁ」
≪ルルーシュ出発まであと4分≫
「ほお?何に使うっていうんだ?」
「そりゃあもう、い・ろ・い・ろ・と。まずは宿題を全部やって貰うかな。それも古代史のレポートv」
眠りを誘う授業No.1でありながら、出されるレポートの量は半端ではなく、これまで数多くの生徒を涙の海に
沈めてきた授業である。
「古代史とは・・・そんなことを言うなら、もう二度と手伝わないぞ」
「手伝わないぞって、ルルーシュが手伝ってくれたことなんて殆どないじゃん」
「それなら前に数学の山を当てたのはどうなんだ?」
「山って言ったって、一つだけだろ。他の山は教えてくれなかったからさ」
「ふっ・・・試験は日頃の勉学の成果を計るものだ。山を頼りにしてはいけないな」
「うわっ、山当て撒くって点を稼ぐルルーシュには言われたくないね」
ふふ、と怪しく二人が笑う。次の手を考える間が暫し空く。
≪さあっ残りは一分三十秒≫
二人の攻防を尻目に、カウントダウンは徐々に減っていく。
「時にリヴァル・カルデモンド。こんな噂を聞いたんだが──」
「な・・・なんだよ」
不意に耳元で囁き声で話しかけられ、リヴァルはぎくりとする。
「先日バイト先のバーにて、随分素敵な御仁に気に入られたらしいな」
「なっ・・・・・・・なん、のことだか」
「胸板は大胸筋ではち切れんばかり、シャツから覗く縮れた胸毛もセクシーなダイナマイト・バディの
持ち主だったそうじゃないか」
「な、・・・何でそれをっ」
「熱い求愛だったそうじゃないか。何でお受けしなかったんだ?さぞやおぞまし・・・じゃない、
魅惑の未知の体験が出来ただろうに」
「やめろー、言うなぁぁ!俺のトラウマをぉぉぉ」
リヴァルは、うわぁぁぁと叫びながら耳を塞ぎ、蹲ってしまった。
「これ、生徒会長に話したら楽しいことになるだろうなぁ、リヴァル・カルデモンドの危ない夜」
そこへ自分も膝を着いて、追い討ちを掛けるようにそっと囁く。リヴァルにとって、ルルーシュは
もはや悪魔の化身、いや悪魔そのものだった。
「ま、そういうことだから、邪魔はするなよ?」
ルルーシュは悠然と立ち上がり、怯えた表情のクラスメイトを見渡す。
≪さあ、いよいよ残り20秒!19、18、17・・・≫
「で、他に俺を引きとめようという輩はいるか?」
ぶんぶんと一斉に皆、首を振る。
「ふ、賢明だな」
その様子を確認し、満足気に微笑を浮かべるとルルーシュは悠然と踵を返した。
「さあ、スザクを見つけるか」
≪・・・3、2、1、スタート!≫
いよいよかくれんぼは開始された。
リヴァル・カルデモンドという尊い犠牲を残して。
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