ピンポンパンポ〜ン、とこれまた迷子のお呼び出しにはごく一般的な鉄琴の音が鳴り響いた。
生温い空気に支配されていたシャーリーたちも、その聞きなれた音を聞いてスピーカーに目をやる。
いよいよ始まるのだ。
アッシュフォード学園生徒会主催によるルルーシュ・ランペルージの誕生日パーティが。
≪アッシュフォード学園高等部二年、ル、ルーシュ・ランペルージ君!18歳の誕生日おめでとう!
ささやかながら、今日は生徒会主催で精一杯お祝いしてあげるわよっ≫
鉄琴の残響が残る中、学園中に校内放送をかけるのは、勿論生徒会長のミレイ・アッシュフォードである。
突然の大音声にびくり、と身体を止めた生徒達も、それが生徒会長によるものと分かると一様に「ああ、またか」
と一瞬止まった作業を再開する。が、校内放送で名前を呼ばれたルルーシュはそうはいかない。
「な・・・何をする気なんだ」
クラブハウスでパーティじゃなかったのか!?
何か考えているとしても、てっきりパーティの最中での話だろうとルルーシュは思っていたのだ。
これでは予測と違う。
一方でスザクも「あれ?こんなの予定にあったっけ?」と首を傾げていた。
よもや自分が聞かされていた計画が全くの出鱈目であるなど、知る由もない。当然、この後自分を待ち受けている
試練についても全く知らない。事前に知っていたならば、スザクは何としても逃げていただろう。
しかし、後悔は先に立たないから”後悔”なのである。
≪うふふ、今日はルルーシュの誕生日だからね、今、一番、欲しがっているものをあげるわ≫
何の見返りも無しに、など有りえない話だ。そもそも俺が今一番欲しいものが分かるというのか?
ルルーシュは冷静にミレイの言葉を分析していく・・・ように見えて、心臓はばくばくだった。
これまで生徒会長の趣味に付き合わされて味わった、数々の修羅場、愁嘆場、果ては阿鼻叫喚の地獄絵図を
思い出すと平静などいられる筈もない。脇の下は冷や汗だらだらである。何だ、一体何を贈ろうというんだっ。
ルルーシュの緊張も最高潮に達した頃、ミレイ・アッシュフォードが口を開いた。
≪そ・れ・は・・・枢木スザク君のっ初めての・・・・・・≫
「え?僕?」
徐に途切れた言葉の合間に、呼ばれた当人の当惑した声が響く。
≪・・・って、いや〜ん、こんなこと恥かしくて私の口からは言えないわっ≫
(嘘を吐け、嘘を!)
とは、勿論、外見は華麗な金髪美女、如かして中身は中年のおじさんな生徒会長の真の姿を知る生徒会一同の
ツッコミである。
「初めての・・・って何のこと?」
「・・・スザクの・・・初めて・・・・・・」
スザクは大いに戸惑い、 一方でルルーシュの頭の中では、瞬時に硬軟取り揃えた妄想が駆け巡った。
勿論その内容についてはここでは書けない。
「ルっ・・・ルルーシュ・・・?」
さすがのスザクも、下心見え見えの不気味なルルーシュの顔に不穏なものを感じたのか、じりじりと後ずさった。
そのスザクの様子を見て、如何なルルーシュといえども、さすがにやばい顔だと気付いたのか、顔を引き締めると
爽やかに満面の笑みを浮かべてみせた。
「スザク」
(はぁと。が語尾に見えるぅぅうぅぅぅ!)
(イヤー気持ち悪い!)
ずざざざざ・・・とクラス中が引く中、少しずつルルーシュとスザクの距離が縮まって行く。
(逃げろ枢木、そいつはもはや羊の皮さえ被っていない、涎を垂らした狼だ!)
(どうしよう、このままじゃスザク君が変態の餌食に・・・っ)
(骨は拾ってあげるわ)
欲望むき出しの変態狼の恨みを買いたくないため、皆心の中で突っ込むのみで、決して助けの手は伸ばさない。
止められるのは、今や完全ロックオン状態になっている本人と妹のナナリー・ランペルージだけだが、
本人は得体の知れない恐怖にじりじり後退するので精一杯、妹君は校舎の違う中等部だ。もはや此れまでか、
と思った頃、救いの手は意外なところから齎された。
≪そこで涎を垂らしている狼君。悪いけど、無条件って訳にはいかないわよ≫
この状態を引き起こした張本人である。
「何だと!?俺の誕生日なのに、何故条件付きなんだ!」
≪うふふふ、悪いけどルルーシュばっかり楽しい目に会うだけじゃ、私が面白くないのよ≫
「まあいい、簡単に手に入ったのでは面白くない。条件とやらを聞こう」
ルルーシュ、ゼロ様プチ発動。
≪それじゃあ、条件を言うわよ!しっかり聞きなさい≫
しん、と静まり返る教室内、いやアッシュフォード学園内。
≪ルルーシュ・ランペルージ君18歳の誕生日プレゼント、枢木スザク君の初めての・・・いや〜ん・・・を賭けた≫
長い。そしてやっぱり「いや〜ん」は入るのか。漂い始める生温い空気を切り裂く勢いで
ミレイ・アッシュフォードの声が響く。
≪題して、アッシュフォード学園第一回かくれんぼ大会!≫
・・・は?
「かくれんぼ・・・?」
≪基本ルールの説明はいらないわね。隠れるのは枢木スザク君、鬼は当然ルルーシュよ。制限時間は1時間。
1時間ルルーシュに見つからなければ、スザク君の勝ち、1時間以内にルルーシュがスザク君を見つけたら
ルルーシュの勝ち。晴れて景品はルルーシュのものよ≫
プレゼントがいつの間にか景品になっているが、誰も突っ込まない。
(1時間か・・・学園内のことに関しては、転校生のスザクよりも俺の方が詳しい。ふっ、余裕だな)
≪ただし、これでは転校生であるスザク君が圧倒的に不利な為、もう1つ条件を付けます!≫
(ちっ・・・余計なことを)
≪アッシュフォード学園の皆さんには、ルルーシュの邪魔をお願いするわ。見事ルルーシュの足止めに成功した
者には、ルルーシュ・ランペルージ一日服従の権利を差し上げるわ。煮て良し、焼いて良し、
日頃の恨みを晴らすも良し、猫耳、メイド服なんでもござれよ!≫
その途端、女子生徒達の黄色い悲鳴と共に、男子生徒達の雄叫びが学園を揺らした。そんなに恨みを
買っているのか、ルルーシュ・ランペルージ。
≪スザク君が隠れる時間は5分。あなたならそれで十分でしょ。ルルーシュは必ず5分経ってから教室を出ること。
・・・さあ、枢木スザク君っ≫
「え、あ、はいっ」
一人全く話が見えずに戸惑っていたスザクだが、そこはさすが軍人。呼ばれた名前には直立不動で応えを返す。
≪ミレイ・アッシュフォードが命じる。全力で隠れなさい!!≫
「はっはいっ!」
口調に釣られて敬礼までして見せて(残念ながら軍靴では無いため、靴音は響かなかった)スザクは
正に脱兎の如く教室を飛び出した。
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