この間の世界史のテストが悪かったとかなんとかで放課後呼び出されたルルーシュが遅れて生徒会室に辿りついたとき、何故かリヴァルが生徒会室前に突っ立っていた。しかも心なしか顔が引きつっているように見える。
「リヴァル。何やってるんだ?」
何故入らないんだと扉に手を掛けたとき、うわー待て待て待て! と唐突に叫びだしたリヴァルに止められた。まったくもって意味が分からない。ただでさえ呼び出しを食らって不機嫌だったというのに、こんな意味不明な行動をされてはますます不機嫌メーターが上がる。
「何なんだ一体」
「今は・・・駄目だ。その、会長命令で」
「会長がまた何かやらかしたのか?」
「えーと、そんなところ。で、合図があるまで入るなって」
「また何を思いついたんだか・・・」
ルルーシュは大きく溜息をついた。
ミレイな唐突な思い付きにはあまり良い思い出がない。先日の猫祭りだったり、いつだかの水着で授業だったりと突拍子もないことばかりを思いつく。生徒達には好評なのだが、準備するミレイ以外の生徒会メンバーの負担(主に精神的な)は相当なものだ。
それがまたやってくる。これほど気が滅入るものはない。先ほどまであった世界史教師への不満などどこかへ吹き飛んでしまった。
男二人、生徒会室から締め出された図というのは傍から見て相当間抜けだ。この状況を客観的に分析したルルーシュは思った。いや、主観を入れても間抜けにしか思えない。
そういえば、三人目の男子メンバーであるスザクはどこへ行ったのだろう。珍しく朝から放課後まで学園にいられると喜んでいたから校内にいることは確実なのだが。
そのとき、コンコン、と生徒会室の内側から二回ノックの音が聞こえた。その後に「い、い、わ、よ〜」と語尾に音符でもつきそうなノリのミレイの声が続く。何が待っているのかと多大なる不安を抱きながらそおっと扉を開けた。
そこにはミレイとカレンとシャーリー、奥でパソコンに向かっているニーナ、そして見たことのない女子生徒がひとりいた。
女子生徒は俯きながらスカートの裾を押さえている。ウェーブのかかった鳶色の髪は腰まであり・・・・・・鳶色?
女子生徒は誰だろうと外見から分析しようとしていたルルーシュの思考が止まった。
この髪の色には見覚えがある。そしてこのふわふわとした髪質。ちょっと待ていやそんなはずがと己で出した答えに突っ込みをいれてみるが、どうみたってこの女子生徒は、
「スザク・・・?」
それを聞いた女子生徒―――もといスザクはさらに顔を俯かせた。
なんでもこういうことらしい。一週間後に男女逆転祭をやろうと思い立ったミレイは高らかにそれを宣言した。ああまたか、と皆が半ば諦めの境地に旅立つ中、男女逆転祭を知らないスザクは素直に「男女逆転祭ってなんですか?」とミレイに尋ねた。
それを聞いたミレイは習うより慣れろということで実際に体験してもらうことに決め、速攻でリヴァルを追い出し、シャーリーとともにスザクをあれよあれよという間に女子生徒に変身させてしまった。だが確信犯に違いない。スザクと同じ髪色をしたウィッグがあるのが良い証拠だ。
現在身をもって男女逆転祭を体験中のスザクは顔を真っ赤に染め、涙目になっていた。恥ずかしそうに短いスカートを伸ばそうとしているささやかな努力が涙を誘う。足は黒のタイツにローファーとなんとも清楚な出で立ちだ。足はそのままにして膝まで隠す長さの黒のセーラー服を着せたい。間違いなく似合う。
そこまで考えて我に返ったルルーシュはミレイの親父思考が自分にも移りつつあることに気づき落ち込んだ。他人の趣向にどうこういうつもりはないが、自分はそうなるまいと固く誓っていたのに!
「ルルーシュ・・・?」
涙目のままのスザクがルルーシュを見上げた。自己嫌悪のあまり挙動不審になっていたルルーシュを心配したための行動なのだが、今のルルーシュには誘っているようにしか見えなかった。
「スザクー!!」
「ふえぇぇ!?」
奇声を発しながらルルーシュは勢いよくスザクに抱きついた。反応が遅れたスザクはなすがまま、ルルーシュの腕の中だ。逃れようとじたばたと暴れるが、スカートが気になるらしく満足に動けず、結果ルルーシュからも逃れられない。
それを見たシャーリーは叫び、ミレイは大笑いし、リヴァルは呆れ、ニーナは固まった。
生徒会最後の良心であるカレンは思った。男女逆転祭は絶対防がなければならない。もしくはスザクのいないときに開催されるように仕向けなければ。自分の精神安定のために、そしてスザクのためにも。
061229 --- This is daily life of one.