日本独特の梅雨と呼ばれる雨の多い季節の合間に訪れた快晴の日。久しぶりに訪れた気持ちの良い天気に、窓も扉も全開にした。山から吹き降ろし流れ込む風が心地良い。ルルーシュはうんと声を出し伸びをして、床に転がった。アリエス宮に居た頃なら絶対に出来なかった体勢だが、兄妹二人きりで遠く離れた日本にいる今ルルーシュを咎める者は誰も居ない。
「・・・掃除しておいて良かった」
最初は寝転がるどころか、座れる場所を確保するのも大変だった。それを、舞い上がる埃にむせ、涙を滲ませながらスザクと二人で少しずつ片付けるのは大変だったけれど、苦労が報われたとルルーシュは思う。楽に伸ばした手足を涼風が撫ぜて行く。
「ナナリーにも・・・味合わせてやりたいな」
でも女の子が床に寝転がるのはなぁ・・・。ああ、それにこんな所をスザクに見られたら笑われるな・・・スザクが来る前に起きないと・・・。けれどルルーシュの意思とは裏腹に、ルルーシュの瞼は微睡む意識とともに降りていった。
──・・・シュ、ル・・・・・・シュ、ルルーシュ。
ああ・・・スザクが来たのか・・・。
スザク、と声を掛けようとして、ルルーシュは自分の名を呼ぶ声が記憶にある声よりも鋭いことに気付いた。
「いつまで寝ているつもりだっ、ルルーシュっ」
「・・・もう起きている。大声を出すな」
数度首を振って、ルルーシュは状況を思い出した。戦闘の合間に取っていた僅かな仮眠だというのに、今では最もやっかいな敵となった白兜のパイロット、かつての親友と過ごした幼い日を夢に見るとは。
「微笑みながら眠っていたが、そんなに良い夢だったか?」
「・・・さあな・・・」
額に手を当て俯いたルルーシュの態度に違和感を覚え、軽い調子で問うたC.C.だったが、ルルーシュの口元に浮かんだ皮肉気な笑みに眉を顰めた。
「・・・大丈夫、なのか?」
「なにがだ?」
「・・・・・・いや」
まだ聞き足りなさそうなC.C.を視線で黙らせて、ルルーシュは近況確認を促した。こんな時に幼い日のことを思い出すなど──もう自分の傍には、優しい親友も大事な妹もいないのに。
「ルルーシュ、こんなトコで寝ていたら風邪ひくよ?」
「ん?・・・スザク?」
目覚めたルルーシュの傍には、茶色い髪を日の光に透かせながら笑って自分を覗き込むスザクと。
「お兄様でも大の字になって寝たりするんですね」
スザクの隣で床に直接座ったナナリーの明るい笑顔があった。
恥ずかしさに知らず顔を赤らめながら「だって気持ちがよくて」とモゴモゴ答えるルルーシュの言葉に「確かに、気持ち良いね」と答えるなり、スザクも寝転がった。
「あ〜これだと確かに寝ちゃうね。ナナリーもやってみなよ、気持ち良いよ」
「ナ、ナナリー!?」
ルルーシュが止める間もなく、ナナリーも床に寝転がった。ルルーシュを真ん中にして、右隣にスザク、左隣にナナリーが寝ている。気が付けば、左右から伸ばされた手を自然に握っていた。
「あはは、川の字だ」
「何ですか?カワノジって?」
川の字って言うのはね、とスザクが説明する。その声を聞きながら、ルルーシュはまた眠りに落ちていった。
あの温もりが自分の隣に並ぶことはもはや無く──
傍らの温もりに安心し微睡むことが出来た日々は、もう遠い。