ピザの恨みは怖い1

 「約束が違うではないか」
 「うわっ」
 予想外のトラブルもあって、例年よりも慌しかった学園祭が終わって、へとへとになってクラブハウスに戻ったルルーシュを出迎えたのは、黒いオーラを背負ったC.C.だった。
 「な・・・なんだ」
 「なんだではない。世界一のピザを食べさせると約束していただろう」
 「ああ・・・仕方が無いだろう。トラブルが発生したんだ」
 「約束は約束だ」
 言うなり、C.C.はずいっと平皿を突き出した。
 「何だこれは?」
 「ピザ」
 「・・・いつものピザ屋に頼めばいいだろう」
 ルルーシュはうんざりした表情を隠そうともせずに、室内に入って荷物を下ろした。
 大騒ぎだったのだ、兎に角早く休みたいルルーシュだったが、C.C.は容赦しなかった。
 「飽きた」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「おい、こら寝るな」
 無言でベッドに潜り込んだルルーシュに跨って、C.C.はその身体を遠慮なく揺さぶった。
 「世界一のピザを食べさせると約束しただろう」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「この嘘吐きめ」
 「ああ・・・もう・・・嘘吐きでいいよ」
 「ふざけるな」
 「そんなに食べたいなら、自分で作れ」
 適当に言ったルルーシュの言葉にC.C.はふむと頷いた。
 「その手があったな」
 この後起こる騒動をルルーシュはまだ知らない。



ピザの恨みは怖い2

 ぐわらっ、ガラガラ、ドシャーン──。
 「何だ!?」
 真夜中に突然響いた大音量にルルーシュは飛び起きた。
 「まさか・・・侵入者か!?」
 自分達のことは、ブリタニアにはばれていない筈だが、万一ということもある。ルルーシュは廊下で同じように飛び出して来た咲世子に、ナナリーの傍にいるように伝えて、音の出所と思われる台所へと一人向かった。
 今ナナリーを守れるのは自分しかいない。緊張に唇を噛締め、右手には銃を手にして台所を覗き込んだルルーシュは、時間も忘れて大声で叫んだ。
 「何をやっているんだ、おまえは!」
 「・・・ルルーシュか」
 台所にいたのは、ブリタニアからの刺客でもテロリストでも無く、ピザ好きの自分の共犯者。ただし、小麦粉と思われる粉に頭から爪先まで真白にした姿で台所に座り込んでいる。
 「こんな時間に何をしている」
 「ビザを作ろうとしたのだが・・・意外に難しいものだな」
 あの男は簡単に生地を回していたのに・・・とC.C.は悔しそうに呟いている。ルルーシュのコメカミがひくりと引き攣った。
 「ふざけるな、こんな時間に作る奴があるか!?」
 「おまえが自分で作れと言ったのだろうが。それとも昼間に作れば良かったか?」
 「良い訳ないだろう!」
 ぜいぜいとルルーシュは肩を上下させて呼吸を整えた。何故夜中にこんなことで怒鳴らなければならないのだ。
 「兎に角、世界一のピザは諦めろ。宅配ピザを頼んでやるから、それで我慢しろ」
 「嫌だ。そうだ、おまえ昨年は作ったんだろう?おまえが作れ」
 「俺がやっていたのは、生地を広げることだけだ。作れる訳じゃない」
 「・・・役に立たない男だな」
 「・・・・・・兎に角、夜中にピザを作るのはやめろ」
 また怒鳴りそうになったが、さすがにこれ以上騒いでは咲世子とナナリーに聞かれかねない。ルルーシュは何とか怒りを抑えた。
 「そうだな・・・私には作れないようだし、おまえも役に立たないようだし、ここは諦めよう」
 やっと納得したか、とルルーシュは安堵したのだが──。
 「ここはおまえが片付けておけよ」
 「なっ──なんで俺が」
 「約束を守らなかったおまえが悪い」
 ルルーシュは夜な夜な小麦粉塗れの台所を掃除する羽目になった。



ピザの恨みは怖い3

 「あの・・・どちらさまですか?」
 学校に来るなり、見ず知らずの美少女に進路を立ち塞がれてスザクは戸惑った。じぃっと静かな瞳で見つめる少女は、妙な迫力があった。
 「ピザ」
 「え?」
 「世界一のピザ、楽しみにしていたんだ」
 「ええと・・・もしかして昨日の学園祭のピザのこと?」
 「そうだ」
 重々しく頷いた少女の瞳は、悲しそうだった。それに気付いたスザクは途端に申し訳なさで一杯になった。
 「楽しみにしてくれてたんだ・・・あの、ごめんね」
 素直に謝ったスザクにC.C.は重々しく頷いた。
 「そう思っているのなら・・・おまえが作れ」
 「は?」
 「材料もおまえが作っていたことは、既にリサーチ済みだ」
 「ええと」
 まさかそんなことを言われるとは思っていなかったスザクは困った顔で、少女を見下ろした。
 「でも、もうオーブンは解体してしまったし・・・それにあの大きさのピザを作る材料は無いよ」
 「じゃあ、もう食べられないのか?」
 「申し訳ないけど・・・あ、でも」
 「何だ?」
 作れない、と言おうとした言葉をスザクは飲み込んだ。
 「少しなら材料が残っているから・・・小さいサイズでよければ作れると思う」
 「本当か?」
 途端にC.C.は顔を輝かせて、スザクを見上げた。
 「うん。大丈夫だと思う」
 そうして、C.C.はミニサイズになったスザクの手作りピザを手に入れた。

* * *
 「よく毎日ピザを食べて飽きないな」
 部屋に入るなり充満しているピザの匂いにルルーシュはうんざりと呟いた。
 「おや、おかえりルルーシュ」
 一方、ピザを頬張るC.C.はご機嫌だ。
 「ん?見かけない種類のピザだな?店を変えたのか?」
 残り一ピースとなったピザの具を見て、ルルーシュは首を傾げた。いつもC.C.が頼んでいるピザ屋には無い材料が載っていた。
 「いいや。ああ、おまえの友人は料理が上手だな」
 「・・・は?」
 最後の一ピースを摘んで、C.C.はにやりとルルーシュに向かって笑みを見せた。
 「昨日のピザを楽しみにしていたと言ったら、おまえの友人が作ってくれたぞ」
 「!!!???まさか、スザクの手作りか!?」
 「そうだ」
 答えるなり、C.C.は最後の一ピースに噛り付いた。
 「あ〜〜〜〜っ」
 「煩いぞ、ルルーシュ」
 スザクの手作りピザは、ルルーシュの目の前でC.C.の胃袋へと消えていった。

2007.03.12