バレンタイン顛末「食物繊維も!」
「ところで、ロイド。先日おまえが送った物体だが、あれは結局何だったんだ?」
「僕が送ったもの〜?何かあなたに送りましたっけ〜?」
もう忘れたのか!?という言葉を飲み込んで、シュナイゼルは穏やかに詳細を告げた。言っても傾げたロイドの首の角度が深くなるだけなのは分かっている。
「スザクのチョコレートと一緒におまえが送ってきた小瓶だ」
「ああ!あれはチョコレートに決まっているでしょう〜。僕、書いていませんでしたっけ?」
「私が問うているのは、あれの構成物質についてだ」
「構成物質〜?カカオバター、カカオマス、カカオポリフェノール、カルシウム、鉄、マスネシウム、亜鉛などのミネラル分・・・」
「誰がチョコレートの構成成分を聞いた」
「貴方がチョコレートの構成物質は何か?って聞いたんじゃ〜ないですか」
「・・・。私が聞いたのは、おまえが作った小瓶の中身についてだ」
「だから、主にカカオバター、カカオマス、カカオポリフェノールでしょう〜。ミネラルはカルシウム、鉄・・・」
(噛み合わん!)
「もう・・・いい」
「そうですか〜?ああ、そうそうチョコレートにはな〜んと、食物繊維も!入ってるんですよ〜?」
「そうか・・・」
「意外でしょう〜?」
「そう・・・だな」
バレンタイン顛末「奇遇ですね」
「今度から、おまえは食べ物は何も作るな。毒見をした私の騎士は三日三晩、生死の境を彷徨ったぞ」
「奇遇ですね〜僕も三日三晩生死の境を彷徨ったんですよ〜」
「・・・おまえも?」
「そうですよ〜。あの時は、もう本当に死ぬかと思いましたよ〜」
あははは〜と画面の向こうでロイドは気楽に笑っている。
「おまえは、自分が生死の境を彷徨ったものを私に送りつけたのか?」
それでは、もはや要人暗殺未遂である。暗殺というには堂々としすぎているが・・・。
「いいえ〜。スザク君とセシル君に食べて貰おうと思って、同じように作って出したんですよ〜」
「・・・・・・なんだと?」
「そういう怖い顔はスザク君には見せない方がいいと思いますよ〜?」
「・・・・・・」
表情が変わったシュナイゼルに気付いていても、ロイドは頓着しなかった。
「二人に食べて貰おうと思って出したんですけどね。セシル君がスプーンで掬って、僕の口に突っ込んじゃったんですよ〜」
「・・・・・・」
「喉の奥にスプーンが刺さって痛いし、大変だったんですよ〜」
「笑顔で「ちゃんと食べてくださいね」って・・・怖かった〜」
「・・・・・・」
「ちょっと、殿下、聞いてます〜?」
もっと早くこの男の口に突っ込んでくれれば良かったものを・・・。
バレンタイン顛末「羨ましい?」
「ところで、貴方はスザク君にどんなチョコレートを貰ったんですか〜?」
「気になるのか?」
シュナイゼルはロイドでなければ気付かない程度の変化だったが、少しだけ柔らかい表情を浮かべた。
「そりゃあ〜。スザク君が作る物って何でもおいしいですし〜」
「・・・何でも?」
「そうですよ〜。僕は苺風味のトリュフで、セシル君はブルーベリー風味のトリュフでしたよ〜」
「・・・・・・苺風味とブルーベリー風味?」
「貴方は何だったんですか〜?」
「・・・・・・・・・シャンパンだ」
「へえ〜貴方はシャンパンですか〜。面白かったですよ〜特派のメンバーそれぞれのイメージに合わせたトリュフを作ってたみたいで〜」
黙りこむシュナイゼルにはお構い無しにロイドの言葉は続く。
「入院中においしいチョコレートを食べたいって言ってたら、皆に作った分の余りも持って来てくれたんですよ〜」
そう言って屈んだロイドは、ガサゴソと何かを探し始めた。直ぐに目的の物を見つけたらしく、「これこれ」と満面の笑みで水色の箱を取り出した。
「一杯貰っちゃって、まだ食べきれてないんですよ〜」
ロイドは箱の中から一粒丸いトリュフを取り出して、口に放り込んだ。
「あ、これ抹茶風味だ。貴方知ってます〜?抹茶」
「・・・・・・・・・・・・知っている」
「不思議ですよね〜お茶なのに、お菓子と合うなんて〜」
「・・・・・・・・・・・・・・・ロイド」
「何ですか〜?」
「先日承認した予算案だが、不備が見つかった。今日中に再提出しろ」
「ええええええ!?そんな話、聞いていませんよ〜」
「不備が見つかったものは仕方がないだろう」
「・・・そんなに羨ましかったんですか?」
「なんの話だ。再提出は、今日しか受け取らないぞ」
「今日中って、まだ他の仕事もあ〜る〜の〜に〜。徹夜しろって言うんですか〜」
ロイドの悲鳴に、シュナイゼルは嬉しそうに口角を上げてみせた。
「ランスロットの傍に一晩中いられるんだ、嬉しいだろう」
抗議を続けるロイドの叫びは、ブラックアウトした画面に呆気なく断ち切られた。
2007.02.20