バレンタインデー in 特派2

 いつまでもチョコレートを見つめている訳にはいかない。さあ、このチョコレートと呼ぶべきか、おにぎりのチョコレートがけと呼ぶべきか不明な物体に手を伸ばすんだ。
 追い詰められたスザクは、最大限の勇気を振り絞っていよいよ手を伸ばした。
 「ただ〜い〜ま〜」
 「ロイドさん!?」
 「どこに行ってたんですか」
 いよいよチョコレートに手を伸ばそうとしたタイミングでロイドの声が響いて、スザクの勇気は一瞬にして吹き飛んでしまった。
 「固まるのに時間がかかっちゃったよ〜」
 セシルの質問には答えずに、ロイドがはい、と机に皿を載せた。
 「・・・・・・・・・・・・これ、何ですか?」
 「何か実験でもなさったんですか?」
 どす黒い粘度の高そうな物体が、アメーバのように広がって皿にこびりついている。
 「何って、バレンタインのチョコレートだよ〜」
 「「・・・え゛!?」」
 これのどこが!?という言葉は二人とも何とか飲み込んで、もう一度皿の上に視線を戻した。
 「僕も作ってみようと思ってさ〜頑張ったんだよ〜。さ、食べて〜」
 信じられない手際の良さで、ロイドはスザクとセシルにスプーンを握らせてしまった。セシルでさえ、抵抗する間もなかった。
 「・・・・・・・・・・・・」
 無言でスザクとセシルは顔を見合わせた。ロイドには悪いが、これはとてもではないが食べられそうにない。チョコレートはおろか、食べ物にさえ見えない。ロイドが現れるまでセシルのチョコレートに決死の覚悟をしていたのが、スザクは馬鹿馬鹿しくなった。
 (僕はまだまだ甘かった・・・)
 目の前の毒物(にしか見えない)に比べれば、おにぎりのチョコレートフォンデュなんて可愛いものだ。食べられなくはないし、食べてもお腹を壊しはしないだろう、・・・たぶん。
 けれど、これは確実に壊す。いや、寧ろ昇天しそうだ。それも地獄の苦しみを味わいながら。
 「ほらほら〜二人とも遠慮してないでさ〜早く食〜べ〜て〜よ〜」

 その日、特派に救急車が呼ばれたとか、呼ばれなかったとか。


End

2007.02.14

この後、皿の上の物体を食べて一人が倒れました。
誰が倒れたかについては・・・またどこかで書くかもしれません。