いつまでもチョコレートを見つめている訳にはいかない。さあ、このチョコレートと呼ぶべきか、おにぎりのチョコレートがけと呼ぶべきか不明な物体に手を伸ばすんだ。
追い詰められたスザクは、最大限の勇気を振り絞っていよいよ手を伸ばした。
「ただ〜い〜ま〜」
「ロイドさん!?」
「どこに行ってたんですか」
いよいよチョコレートに手を伸ばそうとしたタイミングでロイドの声が響いて、スザクの勇気は一瞬にして吹き飛んでしまった。
「固まるのに時間がかかっちゃったよ〜」
セシルの質問には答えずに、ロイドがはい、と机に皿を載せた。
「・・・・・・・・・・・・これ、何ですか?」
「何か実験でもなさったんですか?」
どす黒い粘度の高そうな物体が、アメーバのように広がって皿にこびりついている。
「何って、バレンタインのチョコレートだよ〜」
「「・・・え゛!?」」
これのどこが!?という言葉は二人とも何とか飲み込んで、もう一度皿の上に視線を戻した。
「僕も作ってみようと思ってさ〜頑張ったんだよ〜。さ、食べて〜」
信じられない手際の良さで、ロイドはスザクとセシルにスプーンを握らせてしまった。セシルでさえ、抵抗する間もなかった。
「・・・・・・・・・・・・」
無言でスザクとセシルは顔を見合わせた。ロイドには悪いが、これはとてもではないが食べられそうにない。チョコレートはおろか、食べ物にさえ見えない。ロイドが現れるまでセシルのチョコレートに決死の覚悟をしていたのが、スザクは馬鹿馬鹿しくなった。
(僕はまだまだ甘かった・・・)
目の前の毒物(にしか見えない)に比べれば、おにぎりのチョコレートフォンデュなんて可愛いものだ。食べられなくはないし、食べてもお腹を壊しはしないだろう、・・・たぶん。
けれど、これは確実に壊す。いや、寧ろ昇天しそうだ。それも地獄の苦しみを味わいながら。
「ほらほら〜二人とも遠慮してないでさ〜早く食〜べ〜て〜よ〜」
その日、特派に救急車が呼ばれたとか、呼ばれなかったとか。
End