バレンタインデー in 特派

 「ロイドさん、どこに行ったんでしょうね?」
 「昼休みでも、ランスロットから離れたことなんて今までなかったのだけど──」
 セシルとスザクが、朝から仕事の合間を探しては配っていたチョコレートも、あとはロイドの分を残すのみ。ところが、いつでも渡せると思っていたロイドの姿が昼休みになった途端に、見当たらなくなった。
 「どこかに食べに行ったとか──」
 「ランスロットを置いて?有りえないわ」
 「そうですよね」
 う〜ん、とロイドの行く先に首を捻っても、一向にそれらしい場所が浮かばない。兎に角ランスロットに関わる場所しか浮かばないのだが、既に思いつく場所は探し終わってしまった。
 「仕方がないわ。昼休みが終わってしまうし、二人で先に食べましょう」
 「それじゃあ、僕はお茶を注いできますね」
 「お願いね」
 二人が昼食を食べ終えても、ロイドは戻ってこなかった。

 「ロイドさん、帰ってきませんね」
 「そうね・・・本当にどこに行ったのかしら。まあ、ロイドさんのことは放っておきましょう。それより──」
 鞄を探ってセシルが差し出したのは、緑色の布に包まれたもの。見た目はお弁当を包んでいるように見えるけれど、それにしては小さい。何だろう?と首を傾げたスザクの疑問は直ぐに解消された。
 「はい、スザク君の分のチョコレート」
 「あ・・・ありがとうございます。それじゃ・・・・・・これは僕からです」
 「ありがとう」
 スザクも用意していたチョコレートをセシルに渡すと、笑顔で礼が返ってきて、自然にスザクの顔にも笑みが浮かんだ。──たとえ渡されたものの形状に不安は覚えていても。
 「あの、これ他の人と違いませんか?」
 チョコレートを配っている時に、セシルが配っていたものをスザクは見ていたのだが、掌サイズの円形の箱だった筈だ。
 「いつもスザク君には頑張って貰っているもの。他の人には申し訳ないけど、スザク君の分は特別製よ」
 「そ・・・そうですか・・・ありがとうございます」
 皆と同じ物で良かったのに、とは絶対に口に出せない。それに包装が変わっているからと言って、中身が変わっているとは限らないじゃないか。
 えいや、とばかり緑色の布を解いたスザクが目にしたものは──弁当箱、を模した箱だった。
 「・・・・・・・・・」
 いや、箱が弁当箱だからって、中身が弁当とは限らないじゃないか。バレンタインだ、チョコレートの筈だ。
 微笑を浮かべてセシルは、スザクが箱を開けるのをじっと待っている。開けないわけにはいかなかった。
 「それじゃ、開けますっ」
 覚悟を決めて開けた中身は──とても見慣れた三角形をしていた。
 「あの・・・これ、は・・・おにぎり型のチョコレートですか?それとも・・・・・・」
 これ以上は口にしたくなかったスザクは、恐る恐るセシルの顔を覗き見た。にっこりと笑顔を浮かべて、セシルは最後通牒を突きつけた。
 「おにぎりをチョコレートフォンデュにして固めたの」
 (イ、イイイイヤダァァァァ!!!)
 ロイドは逃げたに違いない。スザクは確信した。それでも、スザクは律儀だった。
 「ありがとうございます、セシルさん」
 「うふふ、どういたしまして。さ、遠慮せずに食べてね」


End

2007.02.14

どこまでもおにぎりに拘るセシルさんでした。
他の人の渡したチョコレートは普通なのに、スザクとロイドの分は特別です。