バレンタイン前日 in アスブルンド邸


 ※スザクはロイドの家に居候しています。
 (17話でスザクがロイドの好物を知っていた、という件から一緒に暮らしているんじゃ・・・
  という妄想が渦巻いてしまいまして・・・特派は軍施設を追い出されていますし、
  軍の宿舎を追い出されたスザクがロイドの家に居候していたら、という前提です。)
 
 
 
 
 「な〜に〜この甘い匂い〜」
 「ロイドさん、おはようございます。昨日話していたチョコレートを作っているんです」
 朝の挨拶もないロイドに気を悪くすることもなく、にこやかにスザクは答えて、湯煎で溶かしたチョコレートを掬ってみせる。
 「ああ〜本当に手作りなんだねぇ〜」
 感心しているのか、呆れているのかスザクには判断できない口調でロイドが呟く。
 「直ぐに朝食を用意しますから、少し待ってください」
 「は〜い〜」
 頷いて立ち去りかけたロイドだが、ふと立ち止まってスザクの傍に戻ってきた。何だろう?とスザクが考える間に、妙に神妙な顔をしたロイドがスザクの真横に立った。
 「スザク君、おはよう」
 「・・・おはようございます」
 ロイドの挨拶に苦笑しながら、スザクも挨拶を返した。最初にスザクがロイドの家にお世話になった時に、心配したセシルが駆けつけたのだが、ロイドが朝の挨拶をちゃんとしていないと知るや否や激怒したのだ。それ以来、たとえセシルがその場にいなくても、ロイドは朝も夜もきちんと挨拶するようになった。
 (僕は気にしていないのに)
 それでも、「おはよう」や「おやすみ」といった挨拶を交わすのは、嬉しいものだった。そんなスザクの思いを見抜いていて、あんな行動を取ったのだとしたら。
 「・・・・・・なんか、本当に全部分かっていそうだなぁ、セシルさんなら」
 スザクにはセシルの心遣いがとてもくすぐったい。いつもいつもお世話になってばかりだ。何も返せていないから、せめてチョコレートは気に入って貰えるものを作りたい、とスザクは気合を入れていた。・・・お返しされるであろうチョコレートについては、考えないことにして。
 テキパキと動くスザクの手は、湯煎したチョコレートに同じく湯煎したバターを混ぜて、と次々と作業をこなしていく。種が出来たところで、匂いがつかないようにボールをくるむと、今度はフライパンを手にした。
 バターを溶かし、既に用意していた牛乳と砂糖に漬け込んだパンをフライパンに乗せて焼く。その間に温め直したスープを注いで、と休む間もない。ロイドが身支度を整えて戻ってくる頃には、すっかり朝食の準備が出来上がっていた。
 「あ〜おいしそう〜。ほらほら、スザク君も座って〜」
 「はい」
 二人分のコーヒーを置いて、スザクも席に着いた。
 「「いただきます」」

 それはいつもの朝の風景。


 「ロイドさん、一つ聞きたいことがあるんですけど」
 「ん〜?な〜に〜?」
 食事が終わって、ロイドはゆっくりとコーヒーを飲んでいる。食器類は既にロイドの家の使用人によって片付けられている。
 「ロイドさんって甘いもの好きですよね」
 「別に〜」
 「あれ、でもよく甘いものを食べていますよね?」
 「ああ〜あれはね〜頭脳労働の後には糖分が欲しくなるんだよね〜」
 そう言ってロイドが啜るコーヒーには、そう言えば砂糖は入っていない。まだ朝で頭脳労働をしていないからだろうか。
 「ええと、それじゃあ、オレンジと苺ではどちらが好きですか?」
 「仕事の後なら〜・・・まあ苺かなあ〜」
 首を傾げて答えたロイドはどちらでも良さそうだ。
 「苺ですか。分かりました」
 「分かったって、何が分かったのかな〜」
 「ロイドさんの分は、苺風味にします」
 「・・・?僕の分?」
 「ロイドさんの分のトリュフです」
 スザクの言葉に首を傾げたロイドに、当たり前のように答えてスザクは席を立った。
 「──僕の分、ねぇ・・・・・・。あの人に話したらどんな反応をするかな〜」
 飲み終わったロイドの分のコーヒーカップも手にして、スザクは既に立ち去っている。だからロイドが浮かべた楽しそうな、新しい玩具を見つけたような笑顔をスザクが目にすることはなかった。


End

2007.02.13

ロイドが伯爵と知った時のスザクの驚き方からすると、
同居している、というのは有りえなさそうだなぁ・・・と思ったんですが、
そのことに思い至ったのが、既に半分以上書いた段階でしたので、
書き上げてしまいました。
(でも、この設定だと幾らでも話が出てきそうです。)
ちなみに、余談ですが、この話の設定では、
ロイドが一度スザクが作ったフレンチトーストを食べて気に入って以来、
フレンチトーストはスザクが作ったのしか食べない、と
言い出したという設定があります。だからこの日はスザクが朝食を作っています。
なんだか、殿下にしろ・・・スザクに我侭を言う人が多いような・・・・・・。