「ごめんなさいね、ナナリーにまで手伝って貰っちゃって」
「いいえ。楽しいですから」
ミレイの言葉にナナリーがおっとりと答えた。その声に、本当に楽しそうな響きを聞き取って、ミレイは微笑んだ。器用に動いて次々と飾りを作るナナリーの指さえ楽しそうに見える。
「はい、どうぞ──・・・会長さん?」
出来上がった飾りを渡そうと差し出したものの一向にミレイに飾りを受け取って貰えず、ナナリーは戸惑ってミレイを呼んだ。
「ナナリーの手って・・・器用よね」
「そうですか?」
ナナリーの細い手を取って、ミレイが感心したように呟く。
「そうよ〜。凄く丁寧に綺麗に作ってあるもの」
「まあ、ありがとうございます」
「それに細くて綺麗な指よね」
ミレイの手が丁寧にナナリーの手を撫でる。
「ありがとうございます。でも会長さんこそ──」
「あら、ありがと。でもやっぱり若い女の子の手が」
「セクハラしてないで、仕事をしてくださいっ」
シャーリーの怒声がミレイの言葉を遮る。そのままナナリーの手をミレイから引っ手繰るようにして、奪い取る。
「なによ〜シャーリーってば。ヤキモチ焼きね」
「誰が、いつ、ヤキモチなんて焼いたんですか」
「もう、シャーリーは照れ屋さんね」
「照れてませんっ」
シャーリーが必死に否定すればするほど、ミレイのからかいはエスカレートしていく。
「ねぇ・・・こんなペースで、準備が終わるのかしら」
「一生懸命やれば終わると思いますよ」
「・・・だといいけど」
ミレイとシャーリーの終わらないじゃれ合いに、カレンは深々と溜息を吐いた。
「そういえば、ナナリーは誰にチョコレートを渡すの?」
ミレイとシャーリーは放っておいて、カレンとナナリーは二人で飾り付けを再開した。そう言えばナナリーとはあまり話したことが無かったと思い、先の質問をしたカレンだが、口にしてから不躾だったかと思い直した。
「あの、言いたくなかったらいいの。ナナリーはどうするのかなって少し思っただけだから」
慌てたカレンの気遣いにナナリーは笑みを浮かべた。
「いいえ、大丈夫ですよ。私は生徒会の皆さんにお渡しします。パーティが始まる前にお渡しするつもりです」
ダンスパーティは夜に行うこともあって、参加者は高等部の生徒のみになっている。クラブハウスで寝泊りしているナナリーなら、参加しようと思えば出来るが一人だけ特別に参加する訳にはいかないから、と飾り付けのみ手伝っている。
「そう。もう用意したの?」
「はい。咲世子さんに手伝って貰って作りました」
「手作りなの?凄いわね。」
「手伝って貰いましたから。カレンさんにもお渡ししますね」
「ありがとう」
良い子だな、とカレンは思う。目が見えない大変さはカレンには想像もつかない。けれど、そのことはナナリーの魅力を少しも損なわせたりはしていない。
「ニーナさんにもお渡ししますから。受け取ってくださいね」
一人黙々とパソコンに向かい資料を作っていたニーナにも、ナナリーは声を掛けた。
「ありがとう。・・・私も、二人に渡すから」
「ありがとうございます」
「ありがとう。──ああ、私はこれから準備しなくちゃ」
とても手作りする時間などないから、帰り道で買うしかない。
「カレンさんは、どなたにお渡しするんですか?」
「私?私も生徒会の皆に配るわ。ニーナは?」
「あ・・・私も、生徒会の皆に・・・」
頬を染めてニーナは小さな声で答えた。そこにミレイが割って入る。
「ねえ、あなたたち・・・若い女子が三人も集まって、義理チョコオンリーってどうなの?」
今から枯れててどうするの!?と詰め寄るミレイに、ニーナは頬を染め、カレンは冷え冷えとした視線を投げ、ナナリーは──
「お兄様が寂しがりますから」
(確かに)
最も大人の意見を口にしたのだった。
「買出し班、只今帰りました〜」
そろそろ飾り付けを再開しようとしたところで、大荷物を抱えたリヴァルとルルーシュがクラブハウスの入口に立った。
「二人とも、お疲れさま」
「大変だったんですよ〜この荷物を二人でって」
抱えていた大量の紙袋を、テーブルの上に乗せていく。
「でしょうねぇ。スザクちゃんと違って、二人は肉体派じゃないものね」
「会長〜スザクと比べないでくださいよ〜」
見えなくても現役軍人のスザクと、ただの男子高校生の自分を比べられては堪らない。リヴァルに加勢して、ルルーシュも頷く。
「その通りだ。あの体力馬鹿と一緒にされたら、世の中の男子高校生の殆どが軟弱になりますよ」
「でもね〜ルルーシュはそれにしても細すぎると思うわよ〜」
目を輝かせて、ミレイがルルーシュの腰を掴んだ。ルルーシュは逃げる間もない。
「ほぇあっ!会長、何するんですかっ」
「ちょっとお、ルルちゃんってば九号どころか、七号サイズのスカートだって入るんじゃないの?」
「何を言ってるんですか、入りませんし、穿きませんっ」
「会長、ルルにまでセクハラしないでくださいっ」
リヴァルとシャーリーの二人がかりで、ミレイを引き剥がす。
「あの。皆さん、そろそろ準備をしませんか」
「は〜い」
ナナリーの言葉に全員素直に頷いた。
チョコレートに思いを託す、その日まであと一日。
End