シャーリー・フェネットは落ち着かなく何度も書類を書く手を休めては、溜息を着いたり一人の生徒の顔を眺めたりしていた。今、生徒会室には女子役員しかいない。この機会に──と様子を伺いつつ、行動を起こせない自分にシャーリーは何度も溜息を吐いてしまう。一方で、自分に何度も視線を向けながら一向に話そうとしないシャーリーに業を煮やして、カレン・シュタットフェルトは口を開いた。
「シャーリー、さっきからどうしたの?」
「ひぇっ。えっ、な、何でもな──」
「くはないわよねぇ。シャーリー?」
「か、会長!」
にやにやと覗き込むミレイにシャーリーが慌てて首を振った。
「さっきからずぅぅぅっと何度もカレンに熱い視線を送っちゃって〜」
「そ、そんなことっ」
「なあに〜ルルーシュからカレンに宗旨変え?」
グホッとカレンが思い切り咳き込んだ。ニーナは頬を染めてシャーリーとカレンの顔を交互に見つめた。
「なっなんてことを言うんですかっ!」
「あら、違うの?」
「当たり前ですっ」
真っ赤な顔をして立ち上がったシャーリーは力一杯否定した。そんなシャーリーを見て、ミレイはカラカラと笑った。
「や〜ね〜冗談に決まってるでしょう。ムキになっちゃって」
「会長が言うと冗談に聞こえないんですっ」
シャーリーってばかあわいいんだから、というミレイの言葉を無視して、シャーリーが主張する。その通り、と思いつつ巻き込まれるのが嫌なカレンは、黙って興味が無い顔をして書類に戻った。
「あら〜酷い言われ様ね。ま、シャーリーがルルーシュにぞっこんなのは分かってるけどね〜」
「か・・・かかか会長!」
「今更、隠すようなことでもないでしょう」
にやにやと笑うミレイに何も言い返せず、シャーリーは口をぱくぱくさせるばかりだ。諦めてぐったりと座り込んだ。
「で、シャーリーはカレンに何を聞きたかったのかしら?」
「えっ?」
「さっきから、カレンに聞きたいことがあるから何度も見ていたんじゃないの?」
目を丸くしてシャーリーはミレイを見返した。
「どうして、分かったんですか?」
「あんなに何度も見ていれば、誰にだって分かるわよ」
そんなに分かりやすかったのだろうか。シャーリーは暫し悩んだものの、だかこそカレンも自分に話しかけたのだろう、と考えてこの機会に聞いてしまうことにする。
「あの、カレンさんは・・・誰にチョコレートをあげるんですか?」
「え?」
「もしかして・・・ルルーシュ」
「何度も言っているけど、それは無いから」
きっぱりと否定された言葉に、シャーリーはほっと息を吐く。何度違うと言われても、どうしても一度見た光景が頭から離れず、二人が同じ日に休んだりすると直ぐに不安が募った。
「そ・・・そっか。あの、ごめんなさい、何度も聞いて」
「分かってくれたなら、別に構わないわ」
カレンの言葉に安堵しつつ、そうなると別のことが気になってくる。
「それじゃ、カレンさんは誰にあげるんですか?」
「誰にって──・・・誰にもあげないけど」
「えええ!どうして!?」
「どうしてって・・・あげたい人なんていないから」
カレンの脳裏には一瞬一人の男の姿が浮かんだが、慌てて脳裏から打ち消した。バレンタインチョコレートなんて、受け取って貰えるとは思えないし、そういう浮ついたことを好むとは思えなかった。
「カレンさん、好きな人っていないの?」
「──いないわ」
脳裏に浮かんだ黒衣の仮面の男に対する思いはそういう感情とは違う。ただ、義理チョコをあげるなら彼だろうと浮かんだ相手だっただけだ。カレンにとって今最も信頼している人物であり、着いて行くと決めた相手なのだから。
そんなカレンに何を思ったのか、ミレイは「ふうん?」と意味ありげに呟いてカレンを見つめた。
「何ですか?」
「いいえ。ただ、もし渡したい相手がいるなら、後悔しないように渡せるときに渡した方がいいと思っただけ」
「だから、私には──」
「一般論よ、一般論。と言う訳で、シャーリーは頑張りなさいね」
「えっ」
「ルルーシュって、結構競争率高いわよ」
「うっ・・・が、頑張ります」
気合を入れるシャーリーを微笑んで見つめて、次いでミレイはカレンを振り返った。
「カレンも特別に渡したい相手がいなくても、チョコレートは持ってきてね。相手がいなくても、友チョコの交換は皆するんだから」
「友チョコ、ですか」
「そ、友チョコ。その位はいいでしょ」
「──・・・はい」
私が友チョコ、か。本当の意味での友達なんて、この学園には誰一人いないのに。
それでも、どんなチョコを持っていこうかと考えているのは、甘いものが好きな女の子の習性よ、と必死にカレンは言い聞かせた。
「ところで、会長は誰にあげるんですか?」
「な〜に〜?シャーリーは私のチョコが欲しいの?仕方がないわねぇ、私の愛情たっぷりのチョコレートを」
「い・り・ま・せ・ん。もう会長ってば誤魔化さないでください」
「誤魔化してなんていないわよ。それよりシャーリーは、ルルーシュ好みのチョコレートを考えたら?」
「ああっそうだ、ルルーシュってどんなチョコレートが好きなんだろう」
真剣に悩むシャーリーを、カレンはどこか眩しい思いで見つめた。
End