「チョコレートって高いんですね・・・」
「人気のブランドチョコレート?あら、スザク君、チョコレートが好きだったの?」
平日正午に放送されている某テレビ番組でのチョコレートランキングを見て溜息をついたスザクを見て、セシルは首を傾げた。今までスザクがチョコレートを好きだなんて聞いたことが無かったからだ。
「特別好きという訳ではないんですけど・・・たった8粒で2100円とか・・・ああっあれなんて6930円ですよ!」
画面に映し出された値段を見て悲鳴を上げる。とてもこんなに高いチョコレートは買えない。
「女の子って凄いんですね・・・」
立て続けに溜息を零すスザクにセシルは首を傾げる。ブランドチョコレートというだけあって、高い値段のチョコレートばかりが並んでいる。その値段に悲鳴を上げるのは分かるけれど、それがどうして「女の子って凄い」という台詞に繋がるのかさっぱり分からない。
不思議そうな顔をするセシルに気付いて、スザクが日本のバレンタインについて説明する。女性から男性に贈る、それも必ずと言っていい程チョコレートを贈るいうのは、セシルにはピンとこないだろう。日本のバレンタインと学園で開催されるバレンタインのダンスパーティ(独り者限定)の説明をスザクから聞いて、セシルは漸く合点がいった。
「それで最近、あちこちでチョコレートの特集をしていたのね」
単純に冬だからかしら?と思いつつ、300〜500円程度とはいえ、きちんと包装されたチョコレートを大量に買い込む多くの女性客の姿を見掛ける度に、セシルは首を傾げていたのだった。
「それに、確かに本気で好きな相手にしかこの値段のチョコレートは買えないわね」
「どんなに好きでも、この値段は凄いですよ・・・」
紹介されていた十種類のチョコレートの中で、一番高い6930円のチョコレートがランキング第一位と出て、二人はますます深い溜息をついた。
「どうしたの〜?二人して溜息なんてついてさ〜」
腰を曲げて二人が見ているテレビを覗き込んだが、ロイドが目にしたのは少女が微笑んでいるテレビコマーシャルの映像だった。
「この子がどうかしたの〜?」
「違いますよ。さっきまでバレンタインに因んだブランドチョコレートの特集を放送していたんですよ」
先程スザクがセシルにしたのとほぼ同じ説明を、今度はセシルからロイドにすると、ロイドはよく分からないなあ〜、と呟いて首を傾げた。
「どうして恋人でもない人間にまでチョコレートを配るの〜?日本人ってそんなにチョコレートが好きなの?」
そう言われると苦笑するしかない。ブリタニア人には日本の”義理チョコ”の風習は理解しづらいだろう。それでも律儀にスザクは”義理チョコ”の風習をロイドとセシルに説明した。
「僕も毎年”義理チョコ”を用意していますよ」
最後にそう言ってスザクは説明を締めくくったのだが・・・直ぐにそれを後悔することになった。
「それなら折角だから、私も”義理チョコ”を用意しましょうか」
「ああ、みんな喜ぶでしょうね」
特派には、元々日本人だった名誉ブリタニア人も多い。かつて日本だった頃の風習を目にするのは懐かしいだろう。
「スザク君はどうやって用意しているの?」
「僕は手作りしていますよ」
スザクの返答にセシルの目が楽しそうに輝いた。
「あら、それなら・・・折角だから私も手作りしましょうか」
「「え゛っ!!」」
楽しそうに呟いたセシルの発言に、ロイドとスザクが揃って声を詰まらせた。
「何にしようかしら。普通に固めただけじゃ面白くないわよね」
普通に固めるだけで十分ですー!という二人の心の叫びは奇しくも重なったが、「材料を買って帰らなくちゃ」と楽しそうにレシピを考えているセシルに届く筈もなく。
(ごめんなさい。皆さん、本当にごめんなさい)
普通に作れば普通においしい料理を作ることが出来るセシルが、せめて普通に普通のチョコレートを作ってくれることを祈りながら、スザクは今も仕事に励んでいる特派の皆に謝った。
運命の日まであと三日。
End