「ダンスパーティ?」
「そうよ。みんな気合を入れて準備をするんだから」
日常では耳慣れない言葉にスザクが首を傾げる。シャーリーは拳を握り締めていて、言葉通り気合十分だ。
「毎年恒例のバレンタインデーのダンスパーティ。ただのバレンタインじゃ面白くないでしょ。独り者が集まって、ダンスパーティをするの」
「独り者・・・」
「カップルは、二人きりにしてやるのが親切ってもんだろ」
「なるほど」
ぽんと、手を打ってリヴァルの言葉にスザクが納得する。
「だから、スザク君もちゃんと盛装して、チョコレート準備してきてね」
「え?僕も?」
「僕もって・・・・・・・・・えええ、何おまえ、彼女いるの!?」
「ふえ?僕が?」
「へえ〜なになに、そういうことなの?」
スザクの言葉に耳聡く反応したリヴァルが大声を上げる。ミレイはにやにやと笑ってスザクを問い詰めながら、ちらりとルルーシュに視線を流した。
(あらあら、ルルーシュはどうするのかしら〜?)
あたふたと「違うよ」と否定するスザクをからかうのは面白いし、引き攣る顔を必死に無表情に保とうとして失敗しているルルーシュを観察するのも楽しい。ミレイはがしっとスザクの肩に腕を回して拘束する。腕に押し付けられる胸の感触にスザクが顔を赤らめたのも、リヴァルが気にしているのも、気付かないふりだ。
「ほらほら、誤魔化してないで白状しちゃいなさい」
うりうりとミレイは人差し指でスザクの柔らかな頬をつつく。困っているのに女性の腕を無碍に振り払うこともできずに戸惑うスザクは可愛い。
「あの、彼女がいるとかじゃなくて、僕は男なのにチョコレートを用意するのかなと思って」
(ルルーシュったら、あからさまに安心しきっちゃって)
スザクの言葉を聴いて、肩の力を抜いたルルーシュの様子を横目で確認して、ミレイはこっそりと笑う。
「女の子からだけなんて面白くないじゃない」
「そうそう。パーティでチョコレートを渡して告白して、相手のチョコレートと交換して貰えたら、目出度くカップル成立。二人で踊りましょうってなるわけ」
「へえ・・・。じゃあ、断られたらどうするの?」
「・・・・・・おまえ、ヤなこと聞くなあ」
「ごめん」
リヴァルが顔を顰めたのを見て、スザクが素直に謝る。
「交換はして貰えなくても、受け取って貰うさ。気持ちだからな。それさえ断られた場合は、自分で涙と一緒にチョコレートを貪るんだよ。・・・なあリヴァル」
人の悪い笑みを浮かべたルルーシュが、リヴァルの肩をぽんと叩く。スザクに彼女が!?という心配から抜け出したルルーシュは、すっかり元気だ。
「煩いっルルーシュ」
涙目のリヴァルを見て、自分で泣きながらチョコレートを食べたことがあるんだ、と思ったものの、さすがに天然のスザクでもそれは口に出さなかった。
「あと女子は割りと、友達同士でも交換しているよな」
「うん。折角だから持ち寄ったチョコレートを交換し合って食べるのよ」
「それで、いつも最後にはダンスパーティ兼チョコレートパーティになるんだよな」
「楽しそうだけど・・・・・・何だかちょっと胸焼けがしそうなパーティだね」
アッシュフォード学園の生徒はかなりの数に上る。”独り者”に限ったとしても三桁にはいくだろう。それだけの人数がチョコレートを持ち寄って食べ比べをすれば・・・壮絶な光景だろう。
「そうなんだよ・・・カップルの甘い空気にチョコレートの甘い香りが漂ってさ・・・もうどれだけ空しいか・・・」
過去の経験が余程辛かったのか、リヴァルの声には力が無い。
「で、スザクちゃんは参加できそうなのかな?」
「はい。十四日は仕事があるから遅れるかもしれませんけど、ちゃんとチョコレートを作って参加します」
「へ?手作り?」
「うん・・・みんな手作りなんでしょ?」
首を傾げて尋ね返したスザクにリヴァルが呆れた声を上げた。
「おいおい、男でチョコートを手作りできる人間なんて殆どいないって」
「女子だって、本命相手には手作りより高級チョコレートで本気度を見せて勝負って子もいるし」
リヴァルとシャーリーの説明にスザクは素直に頷いた。それを見て分かってくれたか、と思った生徒会の面々だったが、それも束の間、直後にスザクが爆弾を落とした。
「そっか。手作りじゃないと受け取らないって言われたから毎年作ってたけど、手作りじゃなくても良かったんだ」
「は?」
「でも市販の高級チョコレートなんて食べ慣れているだろうし・・・」
「あの・・・スザク?おまえ何を言って・・・」
今年はどうしようかな、と悩むスザクは自分の発言が広げた波紋にまるで気付かない。
「スザク君・・・もしかして毎年チョコレートを手作りしてるの?」
「うん」
誰に贈ってるの?という一番聞きたいことは聞けなかったものの、もう一つのシャーリーの疑問にスザクはあっさりと答えた。復活していた筈のルルーシュが、砂となって今にも崩れそうだ。
「あ、ごめん。僕そろそろ戻らないと。・・・それじゃ、僕はこれで」
「うん・・・バイバイ」
「また、な・・・」
曖昧な返事を寄越す生徒会の面面の不自然さには気付かないまま、スザクは颯爽と生徒会室から去って行った。
何とも言えない沈黙が生徒会室に満ちる。
「スザクちゃんってば、彼女はいないのに、チョコレートを渡す相手はいるってこと?」
「しかも手作りしか受け取らない、なんて言う人」
「はっ・・・・・・まさか、愛人!?」
・・・・・・!!??生徒会室に衝撃が走る。まだ十七歳なのに。あのスザク君が?声無き叫びが生徒会室を駆け巡る。
「スザク〜〜〜っ俺は認めないぞ!」
さて、スザクが毎年チョコレートを贈っている相手とは誰でしょうね?
End