想いは短冊とともに、願いは彼女とともに

 僕が子どもの頃に、ルルーシュとナナリーと一緒に笹に短冊を飾った話を聞いて、ユフィは嬉しそうに笑った。特に、僕とルルーシュのどちらがより大きい笹を用意できるか競争をして、ルルーシュが間違って竹を持ってきた話をした時なんて、吃驚するくらい大きな声を出してユフィは笑った。
「ルルーシュって、頭はいいのに、時々抜けているんですよね」
「そうですね。毒キノコの特徴を長々と説明した後で、自信満々に「これは 大丈夫だ!」って言って、僕が止めるのも聞かずに笑いダケを食べて、笑い死にしそうになったこともあります」
 ルルーシュごめん、と心の中で謝りながら、幼い頃の失敗談を話せば、ますます嬉しそうにユフィは顔を綻ばせて笑った。幼い頃のルルーシュとナナリーとの思い出を、こうして誰かに話せるのは嬉しかった。確かに彼ら三人は兄妹なのだとこういう時に思う。・・・それなのに、ルルーシュとナナリーが生きていることをユーフェミアに伝えられないことを、申し訳なく思う。
「私も七夕をしてみたいです」
「え?」
「無理・・・でしょうか?」
 途端に寂しそうな表情になったユフィに慌てて首を振る。
「いえ、笹は・・・ちょっと探さないといけないかもしれませんが、山に行ば割と見つかると思いますし、短冊はどんな紙でもいいですよ」
 僕の言葉を聞いた途端、ぱあっとユフィは笑顔を浮かべた。
「良かった!それじゃあ、七夕には私と一緒に短冊に願い事を書いて飾りましょう」
「え・・・?僕も、ですか?」
「嫌ですか?」
「いえ、嫌ではないです。でも・・・ちょっと照れくさくて」
「駄目ですよっ照れてちゃ。スザクもちゃんと書いてくださいね?」
「はい・・・。ユーフェミア皇女殿下」
 そう言った途端、ユフィは頬を膨らませた。
「もうっ!二人きりの時はユフィって呼んでくださいってお願いしましたでしょう?」
「・・・すみません」
 心の中では呼び掛けられても、声に出して呼ぶのは、たとえ二人きりでも躊躇ってしまう。その度に、いつも彼女は頬を膨らませて拗ねた。・・・そんな彼女を可愛いと思ってしまうのは・・・誰にも言えない。
「折角だから、セシルさんやロイドさんや他の特派の皆さんにも書いて貰えるように沢山用意しますね。笹いっぱいに、短冊を飾りましょう。だから、スザクも恥ずかしがらないで、ちゃんと書くこと」
「はい、ユフィ」
 今度は笑顔が返ってきて、それを見るとユフィは笑顔が一番だと思う。
「セシルさんは、どんな願い事を書くでしょうか?」
「う〜ん・・・ロイドさんが真面目に仕事をしますように、とか?」
「ロイドさんって真面目に仕事をしないんですか?」
「そんなことは無いんですけど・・・ただちょっと遊び心が入ってしまうと言うか・・・」
 パスワードが好物だったりするのは、まだ可愛い方だ。
「それじゃあ、ロイドさんならどんな願い事だとスザクは思いますか?」
「ロイドさんですか?そうですね・・・両腕一杯のプリン、とかかなあ?」
 ロイドさんの思考は僕にはまるで計り知れない。でも、両腕一杯のプリンなら、ロイドさんは確実に喜ぶと思う。両腕一杯にプリンを抱えたロイドさんを想像したのか、ユフィの口からくすくすと笑い声が零れている。
「それじゃあ、スザクの願い事は何ですか?」
「僕ですか・・・?僕は・・・ええと家内安全、かな」
 そんな事を言われても急には思いつかなくて、出てきた願い事はありきたりなものだったけれど、ユフィはカナイアンゼン?と呟いて首を傾げた。
「あの、家族皆健康でありますようにっていう日本の典型的な願い事です」
「オリジナルじゃないんですか?」
「まあ、そうですね」
 苦笑して返した僕に、ユフィは不満そうだ。
「それじゃあ、ユフィは何て書くんですか?」
「私ですか・・・?私は・・・」
 黙り込んだユフィの顔が凄い勢いで真っ赤に染まった。
「ユ、ユフィ?あの、どうかしましたか?」
「え?あ、その、私も願い事はカナイアンゼンにします!」
 ・・・?何だか様子が変だ。
「ユフィ?願い事は本当にそれでいいのですか?何か他にあるのでは・・・」
「い、いいん、ですっ!スザクもちゃんと書いてくださいね。約束ですよ」
「はい。・・・?」
 ますます真っ赤になって、そっぽを向いてしまったユフィの様子には釈然としなかったけれど、久しぶりの七夕を考えると嬉しかった。
「笹と短冊、楽しみにしています」
「・・・はいっ。楽しみにしていてください」
 小さく拳を握って宣言するユフィは、凄く張り切っていた。



「こんなに沢山、用意してたんだ・・・」
 自分の背丈と同じくらいの大きな笹と、積みあがった短冊を目の前にして苦笑いが浮かんだ。特派宛に届いた笹と封筒。その届け主の名を見たのだろう、自分に封筒を渡してくれた女性は目を真っ赤にしていた。
 封筒には色とりどりの短冊の束と一緒に、短い手紙は入っていたけれど、願い事が書かれた短冊は入っていなかった。きっと、ユフィのことだから、特派まで出向いて、一緒に書いて飾るつもりだったのだろう。
「コーネリア総督には、すっごく叱られただろうな」
 でも、ユフィなら叱られても、コーネリア総督にも短冊に願い事を書いて貰っていたかもしれない。もしかしたらダールトンさんやシュナイゼル様の願い事も。
 ピンク色の短冊を裏返しても、そこには何も書かれていない。ユフィが短冊に本当は何を書きたかったのかは、もう分からない。コーネリア殿下が書いた筈の言葉も、ダールトンさんの願い事も、シュナイゼル様の願い事も。
 全部分からない。この笹に飾られることもない。
 手にしたピンク色の短冊に家内安全と書こうかと思ったけれど、結局何も書けなくて、諦めた。それから自分用に白い短冊を手にしたけれど、こちらにも何も書けなかった。
 ──約束ですよ。
(ごめん、ユフィ)
 短冊に書ける願い事なんて、もう無い。君が用意してくれた短冊に書けるような綺麗な願いを、この世界に抱くことなど、もう出来ない。
(僕は約束を破ってばかりだね)
 学校にも、もう通っていない。通えるような状況ではなくなってしまったし、アッシュフォード学園の皆の安否も分からない。
(ごめんね、ユフィ)
 願い事を書けないままピンク色と白の短冊を、笹に結びつけた。


 その後、笹は特派の人達が書いた短冊で一杯になった。
 ロイドさんが書いた黄色の短冊には、「巨大プリン!」という力強い言葉とロイドさんらしき人が巨大プリンにダイブする下手な絵が書かれていて、僕もセシルさんも笑った。


End

2007.07.22

「真実のある場所」で会話の中にだけ出てきていたスザクとユーフェミアです。
漸く書けた23話後のスザクです。(エピローグ部分だけですけれど)
・・・24、25話の特別上映が今日・・・なんですよね・・・。
どうなっているのか怖くもあり、早く知りたくもあり。
24、25話公開前だから書けた話でした。
・・・こんなにゆったりした時間が一時だろうと訪れるとは思えないので。
そう言えば、最初に書いた「欲しいものは全力で奪い取れ」以来の
一人称の話だったりします。やっぱり難しいです。

それにしても、自分のタイトル付けのセンスの無さが憎いです。
これでも、一週間近く悩んだんですけれどね・・・・・・。