F1マシンに乗る為には、まずは自分の体型に合わせたシートを作って貰わなければならない。身体が大きすぎるとコクピットに身体が入らないということさえある。そうなると、シートどころかシャシーさえ手直しすることもあるので、重要な作業だ。
シート合わせの為、訪れたファクトリー(何故か大学構内にあった)で、スザクは殆どのチームスタッフと初めて顔を合わせることになった。
「はじめまして。チーフメカニックのセシル・クルーミーです。貴方の担当エンジニアも兼任するから、これからよろしくね?」
「枢木スザクです。こちらこそ、よろしくお願いします」
チーフメカニックが女性ということに驚きつつも、スザクは笑顔で握手を交わした。F1という厳しい世界で生きているとは思えないほど、優しい笑顔を浮かべた穏やかそうな女性、というのがスザクの彼女に対する第一印象だった。・・・・・・尤もこれは、あくまで第一印象に終わるのだが──
「女性がチーフメカニックなんて驚いた?」
「え・・・そんなことは・・・・・・すみません、驚きました」
見透かすように笑って見つめるセシルに観念して、スザクは素直に白状した。そんなスザクに怒った風もなく、セシルは楽しそうに笑っている。
「スザク君は素直ね」
「気を悪くされたなら謝ります。すみませんでした」
「あら、そんなことないわ。褒めたのに。普通は誤魔化すけれど、素直に言って貰える方が嬉しいものよ」
「そういうものですか?」
「そういうものよ」
にっこりと笑うセシルに、スザクも自然に笑顔を浮かべた。初めて一緒に仕事をする人ばかりだけれど、この人とは気持ちよく仕事を出来そうだ、と流石に緊張していたスザクの不安も、セシルと話すうちに少しずつ溶けていった。
「ねぇ、二人ともいつまで話し込んでいるつもり〜?」
「あらロイドさん、いいじゃないですか。初めて会ったんですよ?」
「・・・お久しぶりです、ロイドさん」
「その微妙な間は何なのかな・・・」
微妙な間の空いたスザクの挨拶に、ロイドは肩を落とした。
「ロイドさん?スザク君に何か・・・」
「してないっ!僕は何もしてないよっ」
(あれ?さっきと様子が・・・?)
違うなぁと思うスザクを他所に、セシルはロイドの襟首を掴み上げている。
「あああっ、そうだ、スザク君っ。早くレーシングスーツに着替えてきてよ。準備しているからさっ」
「はあ・・・」
「そうね。スザク君のレーシングスーツ姿、楽しみにしているわ」
「それじゃあ着替えてきます」
未だセシルに締め上げられているロイドは気になりつつも、スザクは着替えに向かった。
(セシルさんって・・・チーフメカニックだけあって力持ちなんだなぁ)
生憎、スザクの感想を聞いた者はおらず、誰にも突っ込まれることはなかった。
End