「何がめでたいものか・・・・・・ああ、そろそろ移動した方が良いな」
「あ〜煩方が来てる〜?」
誰も居なかった筈のダンスホール併設の庭園にも、パーティが進み、人が移動し始めていた。その中の何人かは、明らかにシュナイゼルの様子を伺っている。
「ああ。囂しいばかりで益の無い人間ばかりだ」
「ふ〜ん・・・でもいいんですか〜?身分だけは高い人達でしょう〜?」
「久しぶりの本国だ。旧友と親交を温めていても不自然ではないだろう。」
「ま〜僕はいいですけど〜。貴方もウンザリしてたみたいですしね〜」
シュナイゼルの後ろに付いて歩きながら何気なくロイドが漏らした言葉から、漸くロイドがあんな派手なパフォーマンスをした理由をシュナイゼルは悟った。
(ロイドに気付かれる程、表に出ていたのか)
気付いたのは、唯一友人と呼べる男だからこそだろうが、第二皇子という立場を考えれば喜ばしくはなかった。
「あのですねぇ・・・気付いたのは僕だけだと思いますよ〜言わなくたって分かっているでしょうけど〜」
「ああ、分かっている。・・・・・・今までいらいらしたことなどなかったのだがな」
「確かに、あなた、大学でも取り巻きをあしらっていましたっけ」
「大学はまた特殊だな。最初は実に色々な人間が来たものだが、おまえと友人付き合いを始めてからは、まるで無くなった。あれは有難かった」
「・・・・・・僕は虫除けですか・・・」
「貴重な存在だと言っているんだ」
「・・・・・・貴方にそ〜んなこと言われると、気持ちが悪いですね〜・・・何を企んでいるんです〜?」
ロイドが心底嫌そうに顔をしかめた。何も両腕で自分の身体を抱いて震えなくても良いだろう。
「何もそこまで嫌がることは無いだろう。・・・私にそんな態度を取るのはおまえくらいだよ、ロイド」
「そうですか〜?ああ、あなたのお気に入りはどうなんです〜?随分楽しそうですけど〜?」
にやにやにやにや笑ってロイドがシュナイゼルの顔を覗き込む。
「おまえがそんなことに興味を持つとはな」
「そりゃあ〜もう!態々年末に僕に電話を掛けてきて、何かと思ったら「頼って貰えないというのも寂しいものなのだな」って・・・・・・いや〜貴方に聞かせたかったですよ〜あの時の貴方の声!」
「・・・・・・・・・・・・」
薄紫の瞳を細めてシュナイゼルはロイドを睨んだが、そんなものに怯むロイドではなく、にやにやと笑うのを止めない。シュナイゼルが何か言うまで、ロイドはこの顔を止めないだろう。
「・・・・・・楽しいかどうかはよく分からないが・・・・・・興味が湧いたのは確かだ。あれはいつでも私を真っ直ぐに見るからな」
「ふ〜ん?」
(誰かに対して興味が湧いた、なんて言葉自体が貴方にしては青天の霹靂だって分かってないのかな〜)
「日本の──ああ、今はイレヴンでしたっけ?首相の息子なんでしょう〜?よく殺さなかったものですねぇ」
「・・・・・・まだ十歳になったばかりの子どもだったからな。幾ら男子とはいえ・・・こちらに対して反抗を示した訳でもない。殺すには理由が弱かったというだけだ」
「へえ〜?ま、貴方がそう言うなら構いませんけど〜?言い訳しているみたいにも聞こえますよ〜」
本来なら敗戦国の元首の嫡子というだけで理由は十分だった──これまでのシュナイゼルなら。それがブリタニア帝国という強欲なこの国のやり方だ。後顧の憂いを徹底的に絶つことを厭うたことなど無かった。
「そうだな、私とて認めない訳ではないよ、ロイド。確かに私はあれを殺すことを惜しんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「当主が亡くなったとはいえ、イレヴンにおける影響力が未だ強い枢木家に対する牽制になる、テロリストの燻り出しにも役立つ・・・色々と理由はあったが・・・どれも後付けだな。おまえの言葉を借りれば「言い訳」か」
溜息を吐いて嗤うシュナイゼルなど、ロイドはこれまでに見たことがなかった。
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