「遅かったですね〜殿下」
シュナイゼルが病室を出ると恨めしげな顔をしたロイドが立っていた。
「ああ、スザクがなかなか寝付かなくてな」
「は?」
「こっちの話だ、気にするな」
「はあ・・・」
気にするなと言われても、どこかシュナイゼルの笑みに性質の悪いものを感じて、ロイドは居心地が悪かった。
「スザク君を苛めたんじゃ〜ないでしょ〜ね〜」
「そんなことはしない。少しからかいはしたがな。──ああ、大丈夫だ。そんな顔をするな」
シュナイゼルが何をしたのかは知らないが、ロイドはしみじみとスザクに同情した。
(やっかいな人に気に入られてるねぇ、スザク君も)
「それよりも、ロイド」
「何でしょうか」
瞬時に変わったシュナイゼルの纏う空気に、ロイドの表情も一変する。先ほどまでのどこか柔らかい空気など、既にどこにも無かった。
「あれをあんな状態にしたのは、間違いなくゼロだ。どんな手段を使ったのかは分からないが──」
普通に過去を持ち出した位ならば、スザクはああも揺れはしない。何か余程印象的な、そして酷な方法を使ったに違いなかった。
「そ〜でしょうね〜。ゼロを捕まえるって連絡してきたときは普通でしたし〜」
「だが、その方法が分からない。あれに聞いても覚えていなかったしな」
敢えて忘れたのか、それとも忘れさせられたのか。いずれにしてもこの件についてこれ以上、スザクに聞くのは得策ではなかった。
「ロイド、ゼロに関して何か分かれば直ぐに報告しろ。どんな些細なことでも構わない」
「分〜かりました〜でも・・・」
「何だ?」
これを言ってもいいものか、ロイドは迷った。だが言いかけてやめることなど、シュナイゼルは許さないだろう。
「このままだとコーネリア総督がゼロを殺しちゃうと思いますよ〜」
「ならば、そこまでの男だということだ。いっそ私が出ざるを得なくなれば、直接叩けるものを」
本気で口惜しそうなシュナイゼルの姿にロイドは驚く。そして驚いたまま、口を滑らせた。
「何故、殿下がそこまでゼロに拘るんです」
ゆっくりとシュナイゼルの怜悧な美貌に笑みが浮かぶ。
「目に見える涙こそなかったが──」
ああ、背筋が凍る、とはこういう感覚なのだ。
「ゼロは、あれを泣かせたんだよ、ロイド」
嫣然と冷たく微笑む男の姿に、ロイドは黙って礼を返した。
End