目を開いた先には白い海が広がっていた。何だ?と疑問に思い、白い海がシーツであることにルルーシュは気付いた。どうして目の前にシーツが?と考えて、スザクが病院に運び込まれたことを思い出した。
「──つっ」
起き上がろうとして、関節に走った痛みにルルーシュは顔を顰めた。スザクを見舞ってそのままスザクが眠るベッドに突っ伏して眠ってしまったらしい。不自然な体勢で眠った身体のあちこちから悲鳴が上がっている。
「おはよう、ルルーシュ。・・・大丈夫?」
掛けられた声に、ルルーシュは身体の痛みも忘れて顔を上げた。
「スザ、ク──・・・」
少し心配そうに自分を見つめるスザクの顔に、昨日から重石を乗せられたようだった心が軽くなるのを感じる。スザクが自分を見ている。そのことに、安堵と喜びが湧く。
「あの・・・ルルーシュ、大丈夫?身体、痛いんじゃ・・・」
「それはこっちの台詞だ。どれだけ心配したと思っているんだ」
額に巻かれた白い包帯が痛々しいのに、スザクは自分のことより不自然な体勢で眠っていたルルーシュを心配している。スザクの態度に呆れると同時にルルーシュは悲しくなる。
──どうして自分を大事にしないんだ。
「ごめん・・・あの、ずっと傍についててくれた、んだよね?・・・ありがとう」
頷いたルルーシュを確認して、スザクが少しだけ頬を染めて感謝を口にする。そのスザクの視線を辿れば、昨夜から繋がれたままの手があった。うわ、と一気にルルーシュの顔も赤くなったが、寧ろその手により力を込めて握り返した。
──言わなきゃ分からないんだ、この馬鹿は。
「それだけ心配していたんだ。頼むから・・・あんな無茶はもうしないでくれ」
「──うん・・・ごめん」
ルルーシュの言葉に目を瞠って、それから悲しそうに微笑んで告げた謝罪は何に対してなのか。
──そうだ・・・スザクは・・・言っても分からないんだった。
心配を掛けたことを申し訳なく思っていても、もしまた同じような場面に遭遇すれば、スザクは躊躇わずその手を伸ばすだろう。また同じような無茶をすることに対する謝罪などいらないのに。けれど、それを告げればルルーシュやナナリーの目が届かない所で無茶をするんだ、この馬鹿は。
それ以上スザクに言えなくて、ルルーシュは悔しさにスザクの手を両手で強く握った。
──このまま、どこか安全な場所に閉じ込めてしまえればいいのに。
そうすれば、スザクの身体も魂もこの手に掴まえられるのだろうか。
そこまで考えて、ルルーシュはスザクに見えないように自嘲的な嗤いを浮かべた。なんて無意味な仮定だ。そして、そんなことをしても、きっと自分はスザクを掴まえられない。
「皆心配していたから・・・おまえが目を覚ましたって連絡してくるよ」
ゆっくりと手を離せば、先ほどまで手の中にあった温もりはあっという間に消えていく。
「軽症だけど、血は沢山出たんだ。しっかり休んでいろ」
「うん。ルルーシュ、ありがとう」
それでも、スザクが無事だったことが嬉しい。今はまだ自分の傍に居て、穏やかに笑うスザクを見ていられることがルルーシュには嬉しかった。
どんなに真摯に見つめても、どれだけ懸命に手を伸ばしても、触れるのは一時だけで、決してこの手に掴まえられないけれど。
──それはまるで、池に浮かぶ月のように。
End