砂上の日常

 教室に忘れ物があって取りに返ったら、ルルーシュが一人残っていた。今日は生徒会の仕事もなくて、皆直ぐに帰ったと思っていたのに。
 「ルルーシュ、まだ帰ってなかったんだね」
 「・・・ちょっとな・・・・・・」
 言葉を濁したルルーシュが手にしていた携帯電話を閉じて片付けた。携帯電話を見つめたルルーシュの顔に一瞬見たことのない鋭い表情が浮かんだ気がしたけれど・・・気のせいだろうか?「おまえこそどうしたんだ?」と聞くルルーシュはいつもと変わらないルルーシュだった。
 「僕は、忘れ物しちゃって」
 「忘れ物?」
 「うん、世界史の資料集」
 僕がそう言った途端、ルルーシュの顔に哀れみの表情が浮かんだ。
 「ああ・・・おまえ、この間の世界史は酷かったもんな」
 「うわっそれを言わないでよ」
 先日授業開始と同時に実施された抜き打ちの小テストの結果は、まさに目も当てられない惨状で、うっかり点数を見られたルルーシュとリヴァルにからかわれるかと思ったら、
 「・・・まあ、気を落とすなよ」
 「あー、定期試験でちゃんと点を取れれば挽回は可能だって・・・・・・たぶん」
 と本気で慰められて、余計に落ち込んだ嫌な思い出だ。せめて定期試験でそこそこ見られる点数を取らないと、通わせてくれた皇女殿下にも、僕が学園になるべく長く居られるように軍務を調整してくれているセシルさんを始めとする特派の人たちにも申し訳ない。
 そう言えば、ルルーシュはこんな時間に教室にいるということは、もしかして今日は時間があるんだろうか?浮かんだ考えは、自分にとってこれ以上ない位良いものだったけれど、ルルーシュはOKしてくれるだろうか?
 「あの・・・ルルーシュが嫌じゃなければ・・・勉強を教えて欲しいんだけど」
 ルルーシュだって自分の分の勉強がある。迷惑かなと思いつつ遠慮がちに言ったら「勿論、嫌じゃないさ」と快諾してくれてほっとする。
 「まあ、あの点数でも定期試験で点を取れば大丈夫だ。俺のヤマは当るからな。しっかり点を取らせてやる」
 「ヤマって・・・ちゃんと勉強した方が──」
 「普通にちゃんと勉強していて点を取れるのか?」
 「・・・取れません」
 授業にも中々出られないし、勉強時間もなかなか取れない状況では絶望的だ。最大限努力はするけれど・・・。
 「素直でよろしい。任せておけ、俺がおまえに満点を取らせてあの教師の鼻を明かしてやる」
 「満点って・・・そこまでは」
 「何を言うんだ。俺が教えるからには満点を取らせるぞ。厳しくしていくからな、覚悟しろ」
 「えええええ〜〜〜っ」
 「問答無用。ほら、さっさと教科書を開け」
 何だか凄く楽しそうなルルーシュは、それはもう情け容赦なかった。僕は何度心の涙を拭っただろう。けれど、こうしてルルーシュと一緒に勉強している(一方的に教えて貰ってばかりだけれど)時間はとても嬉しかった。一度は失ったルルーシュやナナリーと過ごした穏やかな日常・・・そして今の僕にとっては、いつ再び失ってもおかしくない大事な時間だからこそ、その時間をルルーシュと過ごせるのは嬉しかった。この時間は、たくさんの人の協力で得られたもので、それを忘れてはいけないと思うし感謝もしているけれど・・・
 ごめんなさい、僕にとって、ルルーシュは特別な友人なんです。
 だから、ルルーシュに叱られながら笑っている僕を許してください。


 ──ちなみに。
 この数日後に行われた世界史の定期試験で、僕はルルーシュの宣言通り、満点を取ってしまった。勿論、ルルーシュのヤマが全部当たったお陰だ。
 てっきりルルーシュも満点かと思ったら、ヤマを当てたルルーシュの方が、満点を取り逃がしていた。残念だったね、そう言うと「ま、俺はいいんだよ。・・・さすがにちょっと気が咎めるしな」と言っていた。
 ・・・・・・何のことだろう?


End

2006.12.15

ルルーシュがヤマを当てられたのは、
勿論第3話でギアスでテスト範囲を聞きだしていたからです。
ルルーシュにとってスザクは特別だけれど、スザクにとってもそうだと思っています。
ただ、どうにもすれ違っている二人・・・。
これからどんどん本編が本格的に二人が敵対しそうなので、
せめて学校では穏やかな日常を送って欲しいです。

2007.01.05 追記
なんて暢気に書いていたら、敵対以前にスザクが酷いことになっちゃいました・・・。
がくり。