暦は十二月を迎え、嘗ての日本──現在イレヴンと呼ばれる土地にも冬がやってきた。夜中から降り始めた雪は朝まで降り続き、世界を一面の白に染めた。ブリタニア軍の特別派遣嚮導技術部──通称、特派──が現在間借りしている大学も例外ではなく、銀世界に変わっている。
「よく積もったねぇ〜真っ白だよ・・・・・・」
くしゅっとくしゃみを漏らし、呟くロイドの声は弱々しく、足元の雪を踏む足取りにも力がない。
「本当、よく積もりましたね。私、こちらに来てからこんなに積もったのを見るのは初めてです」
「そうなんですか?何年かに一度くらい、こんな風に凄く積もる時があるんです」
足を一つ前に出す度に、さくっさくっと雪に靴が埋もれる音が響く。その音を心地よく聞きながら、スザクは数歩、跳ねるようにして足跡を付けてみた。
「綺麗に足跡が残るのね」
「セシルさんは、あまり雪を見たことが無いんですか?」
「ええ。温暖なところで育ったから」
スザクに答えながら、セシルも同じようにして足跡を付けてみる。ただ歩くよりも深く残った足跡は、端が崩れて歪んでしまった。
「形、崩れちゃったわね。スザクくんの足跡は綺麗だったのに・・・」
「これ、少しコツがいるんです。跳ねるよりゆっくり歩いた方が綺麗な足跡になりますよ」
スザクの言葉通り、今度は丁寧に足を雪の上に下ろすと、今度はくっきりとした足跡になった。声を上げて足跡を熱心に付けながら歩く二人は、一刻も早くこの雪道と化したこの場所を離れ、ランスロットの待つ研究棟に行きたいロイドと距離が離れていく。
「い〜つ〜ま〜で〜遊んでるの〜。寒いんだからさ、早く行こうよ」
手袋に包まれた両手はコートのポケットの中、肩を竦めてマフラーに顔を埋めて、頭にはロシア帽子のウシャンカまで被っているロイドの顔は殆ど見えない。カタカタと寒さに震えながら立ち止まって二人を呼ぶロイドは、不機嫌も顕わだった。
けれど、それでも二人を置いてはいかないのだ。
二人が雪道で遊んだ分遠く離れた距離。けれど、ギリギリ声が届く範囲の距離。その距離に気付いてスザクとセシルは顔を見合わせて、くすくすと笑った。
「何やってるのかな〜二人とも。早くしなよ〜」
「はい、今行きます」
焦れるロイドに笑顔で応えて歩き出す。相変わら足元からは、さくっさくっと小気味よい音が聞こえる。
「折角積もったから、後で雪だるまでも作りましょうか」
「雪だるまって・・・確か雪で作った人形のようなものだったかしら」
「はい。雪を丸めて、大きさの違う玉を二つ作って小さい方を大きい玉の上に乗せるんです」
こんな風に、と手振りで雪だるまの形を示しながらスザクが説明する。
「ああ、絵で見たことがあるわ。後で皆で作りましょうか」
きっと楽しいわ、と笑顔でセシルが答えた。彼女がこんな風に言うなら、余程のトラブルでもない限り決定だろうな、とスザクは思う。
「この寒い中、何を話してるの」
「後で雪だるまを作ろうって話していたんです」
「雪だるま〜?こんなに雪が積もって寒いのに?理解できないね」
「雪が積もったから雪だるまを作るんですよ」
信じ〜ら〜れ〜な〜い〜と小さく呟いたロイドに、スザクは微苦笑を零す。
「あら。ロイドさんも作るんですよ」
「・・・っ!!??」
当然でしょう、と暗に匂わせたセシルの言葉に、ロイドは珍しく絶句した。
End