「お疲れさま、ルルーシュ。間に合ったね」
四阿の中にあるベンチに腰掛けて、スザクは待っていた。
(ああ・・・長かった。これでやっと・・・やっとスザクの初めてを貰える。・・・キスになったが)
その時、大きなベルの音がジリリリリと鳴り響いた。スザクが手を伸ばして、発信源を止める。
「何だ、それ?」
「会長さんに渡されてたんだ。この時計が鳴ったらタイムオーバーだからって」
スザクの手には、手の平サイズの時計が握られている。どうやらアラームを掛けていたらしい。
「あの・・・スザクっ」
「なに?」
「あ、いや・・・えっと・・・その、プレゼントのことなんだけど」
「ああ、そうだった」
緊張してどもるルルーシュに対して、スザクはあっさり頷くと、右手でルルーシュを手招く。
「ルルーシュ、ちょっとこっちにきて貰える?」
「・・・?ああ・・・」
スザクの意図がよく分からないままルルーシュは言われた通り、スザクに近づく。
「ここに座って。あ、顔はちょっとこっちを向いて」
スザクが座っているのと同じベンチに座るように指示され、ルルーシュがベンチに座ってスザクの方を向けば、首を九十度回された。
(・・・???言われた通りにしたが・・・スザクは何をしようとしているんだ?)
「ルルーシュ、誕生日おめでとう」
「ああ、ありが──っ」
頬に触れた温もりにルルーシュの言葉が途切れる。
(い、い、い今のはっ)
「すすすすすすスザクっ、おおおおおまえ今っ、今っキ、キ、キ」
「キス?」
「そう!」
ルルーシュは顔を真っ赤に染めて、スザクの唇が触れた頬を押さえた。まさか何も言っていないのに、スザクからキスして貰えるなんて!感激するルルーシュだが、次のスザクの言葉にがくりと肩を落とした。
「会長さんが、ルルーシュが時間内に着いたら、頑張ったご褒美に頬にキスでもしてあげてって。・・・そう言えば「どうせルルのことだから、ナナリーちゃんの手前その程度で落ち着くでしょうから」って言ってたんだけど・・・ルルーシュは、何のことだか分かる?」
「・・・・・・さあ・・・分からないな。会長はよく突飛なことを言うからな」
完璧にミレイに遊ばれているルルーシュである。
「はあ・・・」
「ルルーシュ・・・あのやっぱり嫌だった?」
溜息をついたルルーシュを見て勘違いしたスザクの言葉に、ルルーシュは慌てて頭を振る。
「いやっ、そんなことない。凄く・・・嬉しかった」
「そっか。なら良かった。会長さんに言われた時は吃驚したけど・・・やって良かったよ」
でも、やっぱりちょっと恥かしかったなあ。そう言って頬を染めて、はにかんで笑うスザクを見てしまったら・・・
「我慢なんか出来る訳ないだろう──!!」
「えっえっ・・・ルルーシュ!?」
急に近付いて来た、などと生易しい表現ではなく文字通り飛び掛かってきたルルーシュをスザクは本能で避けた。
「何で逃げるんだ、スザクっ!?」
「な・・・何でかな、ごめん」
(でもどうしてか逃げなきゃって思って・・・)
スザク自身にはっきりと理由が分からなくても、不穏な気配は感じるものである。
(やはり・・・スザクからして貰うのも悪くないが、自分からする方がいい)
それもあんな軽いキスで済ましはしない。思う存分に味わってやる!
「あの・・・取りあえず、ルルーシュ落ち着いて?」
「なら、そこで大人しくじっとしていろ、スザク」
「いや、それも何か出来ないっていうか、したくないっていうか・・・危ない気がするっていうか・・・」
答える間もスザクは飛び掛ってくるルルーシュから逃げ回っている。どれだけルルーシュが全力でスザクに飛びかかろうと、スザクに運動神経で叶うものではなかった。
(ここはやはり作戦が必要だ)
「あっ」
早速とばかりにルルーシュはコケた。如何な素直なスザクと雖もこれには騙されないか?という不安はあっさり覆った。「ルルーシュっ!?」驚いた声を上げるなり、スザクが走りよって来たのである。
「スザク・・・もう少し人を疑うことも覚えた方がいいと思うぞ」
自分が騙しておいて酷い言い草である。勿論、既にスザクの身体はしっかりと捕まえている。
「ルっ・・・ルルーシュ・・・?」
ルルーシュの手によって自分の両頬を包まれて、スザクは戸惑った声を上げた。
「スザク・・・」
「えっちょっと・・・ルルーシュ・・・ちょっちょっと待って──」
「ルルーーー!!!」「ルルーシュゥゥウウウ!!!」
ドゴォっと凄まじい音がして、スザクの目の前からルルーシュが吹き飛んだ。恐る恐る顔を上げたスザクの目の前には、般若と化した美少女二人。肉体派シャーリー・フェネットと外見だけは可憐な病弱美少女カレン・シュタットフェルトである。
(今ルルーシュが吹き飛んだのって、まさかこの二人?)
「「スザク君!」」
「はいっ」
振り返った般若・・・もとい美少女二人の迫力に、思わずスザクは後ずさる。
「大丈夫だった?」
「あの変態に変なことされなかった?」
「は・・・はあ・・・大丈夫です」
(変態って、まさかルルーシュのことかな)
幾らなんでもその言い草は可哀相なんじゃ・・・確かにさっきのルルーシュは変だったけど、と思っても二人の迫力にスザクは素直に頷いた。しかも何故か敬語。スザクだって我が身が可愛い時もあるのだ。
「おい・・・おまえら・・・いきなり何をするんだ・・・」
そこへだらだらと血を垂れ流し、髪もぐちゃぐちゃにして落ち葉を着けたルルーシュが復活した。良いところで邪魔をされたルルーシュは、怒りに目が据わっている。
「あら、ルルーシュ君、もう復活したの?」
「随分素敵な格好ね、ル・ル」
しかしルルーシュの眼光も般若と化した美少女二人には通じなかった。ルルーシュ以上に冷たい視線である。
(・・・な、何だ?)
「ところで、私達の写真は随分役に立ったみたいね?」
「ご希望なら、私の水着写真も付けるって?」
(も・・・もうバレたのかー!?)
「必死だったのは分かるけど、勝手に人の写真を取引に使うのはどうかしら?」
「い、いや、あれはその・・・言葉の綾っていうか・・・」
「じゃあ、あの取引は取り消すのね?」
「え、でもそんなことしたら」
「勿論取り消すわよね?」
「はい」
十数人の男子生徒の恨みを買おうとも、この二人の呪いを受けるよりはマシだ。
「さ、それじゃスザク君、クラブハウスに行きましょ」
「ルルーシュ君の誕生日パーティの準備が出来たの」
途端に笑顔になった二人に両脇を固められてスザクは歩き出す。
「あああ、ちょっスザク!俺の誕生日パーティに俺を置いていくな!」
こうして「ルルーシュ・ランペルージ君18歳の誕生日プレゼント、枢木スザク君の初めての・・・いや〜ん・・・を賭けた題して、アッシュフォード学園第一回かくれんぼ大会!」は終了した。
End